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<<< BBS常連様 Jango Fett Legend様,Mr.9様 ゲスト出演中! >>>
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遠い昔、遥か彼方の銀河系で…
ジャバ・ザ・ハットを失った銀河の裏社会では、その実権を掌握すべく無数の犯罪者たちが暗躍していた。密輸ルートの確保や領域拡大を目論むそれらの暗黒街の顔役たちによる激しい権力抗争は、帝国に取って代わった新政権、新共和国の目に見えないところで日に日に激化していく。その中には、密かに双方の利潤を得ようと結託する者たちも出現した。
ハット・スペースの犯罪王マクソゾル・コフィーンは、ナル・ハッタで奴隷売買を牛耳るオルーヴァ・ザ・ハットとの相互不可侵協定締結を実現した。これにより両者はお互いの領域を侵害しないこと、海賊などの外部襲撃者に対して共闘体制を敷くなどの取り決めが成される。だがその裏で、両犯罪王は密かに私益を貪る計略を巡らし、その周囲の者たちも各々の野望を達成すべく策謀を練っていたのだった。
史上最も腕利きとの呼び声高い賞金稼ぎ、ボバ・フェットを雇ったオルーヴァ・ザ・ハットは、コフィーンの密輸航路にとって最大の害虫と目される密輸業者、ジョージ・カーダスの抹殺を彼に命じる。それと同時にコフィーンも複数の賞金稼ぎをハット・スペースのあちこちに放ち、海賊掃討作戦に駆り出させた。だが彼らを待ち受けていたのは単なる賞金首などではなく、巧妙に張り巡らされた犯罪王たちの恐るべき策略の罠だった――
陰謀渦巻く悪の巣窟ハット・スペースを股に掛け、銀河最強の賞金稼ぎボバ・フェットの新たなる戦いが始まる!
| 1.協定 | 2.因縁 | 3.嘱託 | 4.追跡 | 5.背信 | 6.烈火 | 7.偽計 | 8.真相 | 9.欺騙 |
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1.協定
銀河の犯罪組織について、アガマーの民俗学者ファインディック・パルフォーマーはこう論評した。「犯罪活動に身を投じる者は、大きく二つのタイプに分かれる。金を渇望する者と、殺人を渇望する者だ。」と。
おそらく今、この惑星モルティオードで最も高い建物であるベタックス宮殿の最上階、犯罪王マクソゾル・コフィーンの謁見室で談笑している二人は、どちらもその後者に属すだろう。それはまず、この会談で取り上げられている議題から根拠が得られる。
お互いの領域における人狩り、つまり誘拐や暗殺の権利を認め合う、“殺人協定”締結に向けての話し合いなのだ。
「君はユニークなハットだな。つまり、私が知る限りの君の同胞たちと比べて、良心的という言葉が実に似合う」
三日月のような頭部を振るわせながら、コフィーンはせせら笑った。彼の羽織る暗赤色の質素なローブが、その動きに合わせて風になびかれるように波打つ。彼らを囲むように立つ四本の松明の炎によって、天井の高い謁見室の広い壁に彼のシルエットが投影され、まるでその尊大な巨体が部屋全体を振動させているかのように見せた。
コフィーンは続けた。「バラグウィンの古い友人が言っていたよ。ユーモアを解するハットほど、厄介なライバルはいないとね。それに対して、私は何と言ったと思う?」イーブラ・ビールを一口喉に流し込む。「ジャバ・ザ・ハットはまさしくそんな女だったな」
謁見室中に二人の犯罪王の高笑いが響いた。
「人間の奴隷女を連れていないところを見ると、君は私のアレルギーに気を遣っているに違いないが、それは偏にへつらいの意図がおありかな? マスター・オルーヴァ」
オルーヴァ・ザ・ハットは傍らの大皿からゴーグのつまみの最後のひとつに手を伸ばし、大きな口へぽいと投げ入れた。「人の気遣いに口を挿むものではないぞ、グレート・コフィーン。それに、親切心とユーモアは別のものだ」
「私はそう思わんね。というより、全く同じものだ。少なくともレオバロではね。どちらも事実から話の流れを遠ざける手段に使われる。これ以外の意味には全く興味はない」
オルーヴァは憫笑した。「どうやら、ハットとアンクスとの文化的相違に過敏なようだ。だがその心配は無用だ。わしは人間の女には興味がなくてね。むしろ貴様のアレルギーを事前に知っていれば、人間を身辺につけておいたものを。惜しいことをしたと、後悔の念で頭がおかしくなりそうだ」
二人は再びむせ返るように笑い声を上げた。
一呼吸おき、オルーヴァが真顔で口を開いた。「話を戻すが、プラライマル星系の虫ケラどもにはわしもうんざりしている。だが見様によっては、奴らの利用価値は十分にある。帝国の造船所の瓦礫の中にも、脅威に値する武器のひとつは残っているぞ」
「おいバイアス、このハットの友人にゴーグをもう一皿もって来るがいい」
アンクスは再び視線をハットに戻し、彼が自分を凝視しているのを見て密かに僅かな恐怖を感じた。この醜いエイリアンの巨大な顔には、どうしても慣れることができない。
コフィーンは腹の上に両手を組み、仰け反るように顎を上げた。「私は帝国にはいい思い出がなくてね。ストームトルーパーのヘルメットを見ただけでもいまだに虫唾が走る。だが、私が奴らを生かしておくのに反対な理由は、それだけではない」
「分かっているさ、グレート・コフィーン。貴様の仕切る密輸ルートはすべて認知しとる。しかしそれ――」
「それだけではない」コフィーンは苛立たしげに遮った。「いいかね、マスター・オルーヴァ。君の雇用契約書に奴らが血判を押すのは自由だ。だが相互不可侵協定をないがしろにされては困る。あの連中は新共和国のお尋ね者だぞ」
オルーヴァは侮蔑もあらわにその言葉を笑い飛ばした。「何を心配しとる、グレート・コフィーン? まさかこのハット・スペースに新共和国の警備艦隊が巡回しに来るとでも言うのか?」
「訂正すべきだな。私の領域はハット・スペースだけではない」
つかの間、両者の間に沈黙が訪れた。コフィーンの執事、ジム・バイアスが大盛りのゴーグを満載したカートを押して謁見室に戻って来ると、オルーヴァは深くため息を吐いて大きな頭を振った。
「あのジョージ・カーダスという男には、貴様もずいぶん悩まされとるようだな。だが安心するがいい。すでにこの宮殿に来る前に、手はずは整えておる。腕利きの賞金稼ぎを雇うことにかけては、わしの右に出る者はおらん」
「それは実に興味深い」コフィーンは満足げにゴーグを一瞥すると、グラスを手に取って中身のビールをすべて飲み干した。
バイアスは空の大皿をカートの下段のラックに収め、ゴーグ皿をオルーヴァの右横のテーブルに載せた。早速ゴーグを左手で手に取ると、オルーヴァは突然右手でバイアスの襟を掴み、大盛りのゴーグの中に彼の顔を埋め、その頭上に左手のゴーグを被せた。
コフィーンの周囲の取り巻きたちが一斉にブラスター・ライフルの銃口をハットに向けたが、コフィーンは冷静にそれを制した。
両手をばたつかせてハットの手から逃れようともがくバイアスを尻目に、オルーヴァは冷酷な表情でコフィーンに視線を戻した。「ボバ・フェットのような有能な男は、ユートリジェンの匂いを嗅ぎ分けるくらい造作もない。それは、雇い主のわしも同様だ」
「お見事」コフィーンは両手を振って敬意を表した。「君は私を失望させるような男ではないと、信じていたよ」
バイアスの動きが止まり、彼の両手が力なくだらりと下がった。猛毒のユートリジェンが彼の口や鼻から体内に浸透し、数秒で肺を汚染してしまったのだ。オルーヴァが左手を離すと、バイアスの死体は数匹のゴーグとともに床にどさりと倒れた。
「もっとも――」コフィーンが続ける。「本当に君を殺すつもりなら、ユートリジェン漬けにするのは一切れで十分だ。そうだろう?」
「たわけたことを」オルーヴァは鼻を鳴らした。
「まあお気を静めてもらいたい。ところで、今ボバ・フェットと言ったかな?」
オルーヴァ・ザ・ハットの目は再び獲物に狙いを定めるホークバットのごとき鋭気に満ちた。「その通りだ。狡猾きわまりないカーダスの野郎を始末するには、もってこいの人材であろうが」
「それはどうかな。奴は帝国の使い走りだった。あまり人間を過大評価しないことだ、マスター・オルーヴァ」
だが、心の奥深くでコフィーンはこのハットを高く評価した。どうやら、この会談は実りのあるものになりそうだ。
オルーヴァは詮索するような目つきでアンクスを見据えた。「人間嫌いも程々にしろ。貴様は帝国と人間を過度に結びつけることにかけては天才的だが、そのせいで識慮が欠けておる。ただ、ボバ・フェットを見くびるというのは実に独創的な発想だ」
「個人レベルのステータスに意味があるとすれば、それは就職活動でのことだろう。私にとって真の評価基準は、その種族の特性にある。実際、この判断は幾度となく私を救った。人間はどんなに努力しようとも、失った手足を再生させることはできない」
彼がこう言い終えると、謁見室の奥から二人の人影がコフィーンの背後へと歩み寄ってきた。オルーヴァはその姿を目に捉えると、邪悪な笑みを浮かべて両手を腰に据えた。
「なるほど、これが貴様の自信だったわけか」
「紹介しよう。トランドーシャンのボスクと、バーゲル・ザ・クルセーダーだ」
二人の賞金稼ぎはそれぞれコフィーンの両脇で立ち止まり、じっとオルーヴァを凝視した。トランドーシャンのほうは喉を鳴らしながらあからさまにオルーヴァに敵意を示しているが、赤錆色の甲冑に全身を包んだ仮面の男は、まるで遺跡の中に佇む古びた銅像のように立ち尽くしている。この二人の対照的な様子から、オルーヴァはコフィーンの企みを即座に理解した。この饒舌なアンクスは、どうやらひとつの石で二匹のマイノックを仕留めるつもりらしい。
いや、正確には“二つの石で三匹のマイノックを”であるが。
「ボスクのことは君もご存知だろうが、今回は彼をクレイゴンのところへ差し向ける。異存はないかな?」
オルーヴァは目玉をぎろりと動かした。「その質問の真意が見えんな。だが、貴様の言いたい主張は手に取るように分かる。まずそれを確認させてもらおうか」
コフィーンは手を振ってその言葉を退けた。「その必要はないよ、マスター・オルーヴァ。この協定はすでに機能している。それがすべてを説明しているとも」
「喋りすぎだぞ、コフィーン」突然ボスクが唸り声を上げた。「俺に言わせてもらえば、それは丁寧な回答と大差ない」
小さなため息を吐き、コフィーンは右手を振って衛兵に合図を出した。すると、二人のヴォドランが素早くBD−1カッターを振りかざし、ボスクの喉元に刃を突きつけた。隙を突かれたボスクは棒立ちになり、牙を剥いてコフィーンの横顔を睨みつけた。
「私の名を呼ぶときは、“グレート”を付けろと言ったはずだ」
気性の荒いボスクはしばらく猛犬のように唸っていたが、やがて諦め、全身の緊張を緩めて喉元のブレードを鉤爪で叩いた。
「この仕事が終われば貴様とは金輪際関わりなしだ、グレート・コフィーン」
「好きにするがいい」
コフィーンはそう言うと、再び手を振って衛兵を退かせた。
彼らのやり取りが済むやいなや、オルーヴァ・ザ・ハットは大きな笑い声を上げた。「何たる茶番だ! 貴様は賞金稼ぎを手下とでも思っているのか?」
「言葉に気をつけたまえ、マスター・オルーヴァ。敬意を重んじるのは束縛とは違う。この概念をハットに理解させるのは無理だろうがね」
オルーヴァの含み笑いは止まらなかった。「なぜ貴様が我々の間で商売下手だと囁かれているか、考えたことはあるか? 傭兵連中に憎悪しか植えつけんからだ。雇傭金が貴様の支出の四分の一を占めているのがそれを証明しておるわ」
コフィーンはわずかに鼻を鳴らしただけだった。「どの会計士を買収したかは問わないでおこう。的確なアドバイスを感謝するよ」
「ついでにもうひとつ忠告しておいてやろう」オルーヴァの顔からようやく笑みが消えた。「少なく見積もっても15万は早めに用意しておけ。貴様の右隣にいるフェヴハイにバイブロブレードを突きつける予定があるならな」
「俺を侮辱するのもいい加減にしろ!」ボスクがこれまで以上の殺気を込めて吼えた。「偉大なる犯罪王コフィーンよ、俺はとっとと仕事を済ませて後金を頂戴し、その金でお前らの命を狙うクライアントを一刻も早く探さなきゃならん。これで失礼するぜ」
ボスクは吐き捨てるようにそう言い残すと、返事も待たずにそそくさと謁見室から出て行った。
「それで、だが」これまでボスクがいたことが夢だったとでも言わんばかりの冷静さで、コフィーンが切り出した。「ひとつだけ君にお願いしたいことがある。別に強要するわけではないが」
「何だ? 貴様の大事な執事のために弔慰金を送ってほしいなどと言わんだろうな」
コフィーンはオルーヴァの冗談には反応もしなかった。「ボバ・フェットに仕事をしくじらせてほしい」
一瞬オルーヴァはその言葉の意味を理解しようと黙り込んだが、すぐにいつもの微笑を浮かべた。「何だと?」
「今言ったように、私は強要はしない。だが、このフェヴハイが君の意向を尊重することはないとだけ、付け加えておく」
オルーヴァは詮索するような目つきでコフィーンとバーゲルを見比べた。思ったとおり、コフィーンは我々の妨害を企てていた。だが本人がそれを口に出すだけではなく、お願いするなどとは想像もしていなかったことだ。この男は一体どこまで愚かなのだ?
「貴様のビジネスに付き合っている連中の気が知れんわ」オルーヴァは思ったことをそのまま口にした。「いいだろう。その男なら問題はないかもしれん。ただ、もしカーダスの始末に失敗すれば、それ相応の代償は支払ってもらうぞ」
「かまわん。私とて、覚悟の上だ」
この密約が最終論議だったらしく、バーゲル・ザ・クルセーダーは静かに退室し、コフィーンはグラスの中身を飲み干した。衛兵の二人がジム・バイアスの遺体を引き上げて謁見室の奥へ立ち去ると、オルーヴァはそれを見守りながら傍らの執事に手を振った。
「キャラベルの離陸準備をするがいい」
スタラス・デネミスは深く頭を下げながら、きびすを返して謁見室を後にした。
ソファの背凭れに上体を預け、マクソゾル・コフィーンは全身の筋肉に休息を許した。「君の寛大な対応には感謝するよ。我々はいいチームになれそうだ」
オルーヴァは鼻を鳴らした。「その判断は時期尚早だな。わしはまだ、両手を挙げて賛同する気にはなれん」
「それでいいんだよ、マスター・オルーヴァ」コフィーンは巨体を揺らしながら立ち去ろうとするオルーヴァの後ろ姿に告げた。「私は運のいい男だ。君は実にユニークなハットだよ」
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2.因縁
モルティオードの濃緑色の地表を背に、淡い黄色の塗装にベサディ族の紋章のペイントが施されたハット・キャラベルが、オルーヴァ・ザ・ハットとその取り巻きたちを乗せて軽巡洋艦 <ブッチャー> のドッキング・ベイへと向かっていた。この小型の連絡艇は本来ナル・ハッタとその衛星ナー・シャッダを往来するためにハットが好んで用いる移動手段であるが、オルーヴァはこの機体を重火器や強力な偏向シールド・ジェネレーターを装備した特別仕様に改造させた。いざとなれば単独でハイパースペースへ飛躍することができ、遠隔操作で母艦を近隣の拠点へ帰還させることさえ可能だった。
大多数を占める悪評を裏切り、このキャラベルはその有用性を証明して余りあるほどの功績を残している。だがもちろん、その実績に肖らんとする者はひとりとしていなかった。――必要がないからだ。
ハットの間で吹聴されている噂によれば、オルーヴァ・ベサディ・ヴァンテムは銀河で最も危険な事業に手を染めているという。それが事実であれば、彼の死を願うデシリジクなどのライバル氏族が黙って見ているはずはない。このキャラベルは二つの理由により、武装をせざるを得ない状況にあるのである。
マクソゾル・コフィーンは間違いなく、オルーヴァの命を狙っている。だが今回は予想された奇襲の兆候はなかった。肥えた腹を重々しく持ち上げながら、オルーヴァはビューポートに背を向けた。
「ボスクの船は間もなくハイパースペースへ突入します」傍らのデネミスが並行して歩を進めながら告げた。「追跡ドローンには気づいていないようです」
オルーヴァは大きくため息を吐いた。「予想通り、あのトランドーシャンは明らかに焦っておった。身辺調査は済んだのか?」
デネミスは磨きあげた頭部の長い角を撫でながら――これは彼の種族が考え事をする時の仕草だ――ボスの気色を窺った。「マスターの満足するような成果は未だあげておりませんが、二、三、気になる情報を仕入れました」
二人は昇降路の手前で立ち止まり、キャラベルがドックへの着床を完了するのを待った。
「マドリス星系でレマジオンの手下が地元警察に捕らえられたようです。正確な日時は不明ですが、ハイパードライブの航跡を調べ上げたところ、どうやらボスクが滞在してそれほど経っておりません」
「ふん、尋問が拷問に発展しても口を割らないくらいの手下がうろうろしておるものか」
デネミスは続けた。「その後、ゴーパ・トレンチの中継基地で <ハウンズ・トゥース> が目撃されたという情報が入りました。マドリス星系では十分な燃料補給ができなかったと見て、間違いないでしょう」
リパルサーリフトの轟音が船体に響き、しばらくして着床を告げる点滅ライトが瞬いた。昇降路が空気を吐き出すような音を立てて開くと、すべてのエンジンは唸りを止めた。
「レマジオンと接触するのはまだ早いな。ボスクの向かった方角からすると、奴はまだ用事を残しているらしい」
オルーヴァとデネミスが昇降路をおりてドックの床を踏むと、キャラベルは天井から降りてきた巨大なリフト・アームに機体を掴まれ、動力モーターの轟音と金属の摩擦音を響かせながら上昇していった。
二人は磁気フィールド越しの宇宙を背に、まっすぐ歩き続けた。
「興味深いのは、コフィーンがレマジオンに人間の傭兵の徴収を任せていることだ。その点において、奴の人間への蔑視は矛盾しておる」
デネミスは僅かに肩を揺らした。「案外、トランドーシャンのような蛮族のほうに嫌悪感を抱いているのかもしれませんぞ」
「いずれにせよ、人間のコンビをレマジオンが雇ったこと、そしてボスクをコフィーンが雇ったこと、この二つの明らかに整合性の取れぬ事実は、今後の展開を大きく期待させるわい」
艦橋へと伸びる回廊に彼らが入っていくと、すぐさま体格のいいハーグリックの通信係が歩み寄ってきた。
「フェットと連絡を取る。すぐに呼び出せ」
通信係は一声吼えると不意を突かれたようにきびすを返し、再び来た道を戻っていった。
* * * * * *
反射物に投影された自分の顔が、これほどまで不快感と畏怖の念を奮い起こさせたことはない。ゴーモ・アトゥモーロは己の死を主張するかのように顔を蒼白に変色し、屍のように無気力に上体を後方に仰け反らせた。彼の種族の癖を知らない者は、まるで滑稽な態度で相手を挑発しているかのように見えるだろう。
だがもちろん、このフーブーリアン・メタンカは愚かな自殺行為に走っているわけではない。懸命に現実逃避を哀願しているに過ぎないのだ。
「頼む、これ以上俺に何も喋らせないでくれ。もう腹の内は充分すぎるほど曝け出した。腸の内側まで知る必要があるか?」
T字型の漆黒のスリットに写るアトゥモーロの頭部は、すでに半透明になりかかっている。
ボバ・フェットは左手に掴んでいる操作桿をさらに自分の方向に引き寄せた。「いい提案だ。早速採用させてもらおう」
アトゥモーロは稲妻のような悲鳴を上げた。激痛の発生部からつま先にかけて、虹色の波が全身の皮膚を駆け巡る。節くれだった半透明の小指に喰い込んだ数十本のスチール・ワイヤーが、さらに締め上げられたのだ。青黒い血液がテーブルに滴り落ち、ささやかな水溜りを形成している。
「お願いだ! フェット! もう俺が知ってることは全部話した! 本当だ!!」
フェットは微動だにせず、言葉をも発しなかった。ただ、左手はごくわずかに前後に動かし続けている。その度にアトゥモーロは呻き声と泣き声、そして苦痛の叫びを廃屋内に響き渡らせ、装飾ライトのイルミネーションのように虹色の波を煌かせた。血生臭い光景にそぐわず、彼の皮膚の鮮やかなグラデーションは目を瞠るほどの美しさである。
特異な形状のこの拷問器具は、彼らのいる朽ち果てたプレハブ小屋の散乱した床の中から適当な部品を調達し、ボバ・フェットが即席で作ったものだ。無論、ワイヤーは洗浄されてはおらず、異臭のする黒い機械油がべったりと付着したままだった。
メタンカの耳障りな奇声にうんざりして、ボバ・フェットはようやく左手の動きを止めた。ぐったりとしたアトゥモーロの皮膚はほとんど不可視状態になり、体を通して向こうの景色が覗けるほどその姿は消えかかっている。
「お前はそのターバスという男がダンキーマンダ宇宙港に向かったと言った。なぜそれがわかった?」
アトゥモーロの頭は天井を向いていた。「ターバスはボイネックスに大金を借りてた。言っただろ? 相当焦ってたんだ。あとは歩いていった方角から推測しただけだ」
「その密輸業者の居場所は?」
「知らない」アトゥモーロは即座に答えた。「俺の知ってるアジトはウィシーYとザカデイだけだ。奴がいつ、どこにいるかなんて分かりっこない」
飛び出た目玉から涙を流しながら、アトゥモーロは嗚咽の入り混じった呻き声を上げ続けた。おそらく、本人は理解していなくとも、このメタンカの記憶の中にはまだ少なからず有力な情報が残っているに違いない。だがそれを引き出すのに掛ける時間を、フェットは無駄に費やす気はなかった。また、宇宙港の管制情報を洗うほうがよほど人道的でもある。
ボバ・フェットはアトゥモーロを数秒間凝視した後、グリップからワイヤーを切り離し、椅子から立ち上がった。
「用は済んだ。自由にしろ」
透明の顔を上げたアトゥモーロは、幾分ほっとしたように皮膚に着色を施し、薄笑いを浮かべた。「分かった」
上体を起こし、小指に痛々しく巻きついたワイヤーを解こうとするアトゥモーロは、フェットがブラスターを手にし、自分に銃口を向けていることに気がつきさえしなかった。
廃れた町中の静寂がブラスターの銃声で突然切り裂かれ、数十羽の鳥が鳴き声を上げながら濃紺の空に飛び立った。
* * * * * *
愛機 <スレーブT> のコクピットに落ち着いたフェットは、通信機のスイッチを押してけたたましく鳴り続ける受信音を消した。
「何だ?」
「“フェット、どこで何をしてる? もうカーダスの居場所は掴んだんだろうな?”」
ディスプレイに映し出されたオルーヴァ・ザ・ハットの醜い巨大な顔を睨みつけ、音声以外の伝達装置の電源を落とした。「要求した額を半分まで切り詰めたわりに、でかい口を叩くもんだ。この仕事は情けで請け負ったということを忘れるな」
オルーヴァは苛立たしげに低い声で毒ついたが、ほとんど通信装置の雑音でかき消された。「“ぐずぐずするな。コフィーンは別の賞金稼ぎを雇ってカーダスの元に放った。油断はするなよ。その男はとびきり腕利きだ”」
フェットはリパルサーリフト・エンジンを起動した。「面白い」
「“奴の目的はお前の妨害だ。カーダスを始末できなくとも、お前には必ず攻撃を仕掛けるだろう”」
<スレーブT> がゆっくりと上昇し始めると、フェットはハイパースペース・ジャンプの計器からリードアウトを表示させた。「あの男のことだ、貴様にその計画を親切に暴露したんだろう」
「“似たようなものだ。一応手下がその賞金稼ぎの情報を集めている。言っておくが、保険は下りんぞ”」
「話はそれだけか?」
亜空間ドライブが唸りを上げ、<スレーブT> は機体を垂直に立ててイオン・スラスターから火を噴き、一気に大気圏を突破した。キャノピー全体を暗黒の宇宙空間が包み込む。
「“これからが重要だ。まだハイパースペースにジャンプするな”」オルーヴァはしばらく通信機の向こう側で誰かと話をしていた。
算出されたリードアウトから最適なハイパースペース・ジャンプの情報を設定すると、フェットはしばらく座席の上で全身を休ませた。
通信装置が不意にビープ音のような雑音を発し、銀河の静謐を砕いた。「“フェット、ウーキーは好きか?”」
ボバ・フェットは上の空で聞き流した。「質問を変えろ」
「“ふん、変えたところでお前の答えは同じはずだ”」笑い声はなかったが、その言葉には明確な嘲笑が銜まれていた。「“いいだろう、質問を変える。お前には、何人か悪縁のある同業者がいたな。すべてとは言わん。数人挙げてみろ”」
「くだらん質疑に付き合ってる暇はない。あと1分で通信を切る」
オルーヴァは動じなかった。「“数人の賞金稼ぎが、ジャバ・ザ・ハットのお尋ね者を捕らえてオード・マンテルでお前に献上しようと画策した事件を覚えているか? あのとき携わっていたハンターの名は、わしにも記憶がある。スコアにグリベット、そして、トランドーシャンのボスク」
フェットは黙っていた。
オルーヴァはさらに続けた。「“同じ賞金首を捜索するためにダース・ヴェイダーに雇われたとき、お前のほかにも帝国の戦艦に5人の賞金稼ぎが召集されていたな。デンガーにザッカス、4−LOM、もう一体のアサシン・ドロイドの名は忘れた。そして――”」ハットはわざとらしく間を置いた。「“トランドーシャンのボスクだ”」
「何が言いたい?」フェットはわずかに脅迫を込めて追求した。
「“何も強張ることはない。お前は自分の望むことをすればいいだけさ”」
「俺が望んでいるのは賞金だけだ。通信を切る」
「“ボスクのほうはお前と会いたがっておる”」
フェットはスイッチを押そうと伸ばした手をふいに止めた。
「“実際にはお前だと思っている賞金稼ぎにな。わしの情報網には、すでにその男の詳細が掛かっておる”」
「詳しく話せ」
スピーカーからホロネットの乱れとしか思えないような雑音に似たハットの笑い声が届いた。「“何かを思い出したか。マンダロア戦士のプライドに傷を負ったあの時期の記憶か?”」
怒りがじわじわと、恐ろしく蔓延の早いウイルスの侵食のごとく、ボバ・フェットの全身にたぎった。「俺はマンダロア戦士ではない」
「“それは好都合だ。実は、その男はお前が最も会いたい人物と面識がある”」オルーヴァはもはやこの会話を楽しんでいるようだった。「“以上だ。通信を切りたければ切るんだな”」
「言い損なっていたが――」フェットは焦燥感を断ち切るかのように言葉を押し出した。「貴様はこれまで俺が会ってきた中で最も見苦しいハットの第一位に選ばれた。この座には今までゴーガ・ザ・ハットが君臨していたが、貴様はダントツでその得票数を越えている。おめでとう」
フェットは流れるようにそう言うと、一方的に通信を断った。
眼前に広がる宇宙空間に視界を委ね、銀河一の賞金稼ぎは再び孤独を噛みしめた。
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3.嘱託
その閃光は突如、無音の世界に終焉をもたらした。
偏向シールドが炸裂して青白い光の幕が瞬間的にキャノピーを取り囲み、コクピットに警告のアラームが鳴り響く。フェットは驚いたと同時にシールドを後方に集中させ、着弾した部分をモニターで確認した。被害は全くないが、シールドの出力が60パーセントまで落ちている。
どうやら早くも“妨害”とやらが始まったようだ。
突然の奇襲の三秒後には <スレーブT> は機体を90度回転させ、後方のシールドの出力をさらに強化した。戦略コンピューターのディスプレイに目を走らせ、センサーからのリードアウトを一瞥で記憶する。生命反応はない。どうやら遠隔操作の無人機か戦闘機型ドロイドだろう。それは続けざまにディスプレイを流れる走査結果を見なくても確認できた。
無数のレーザーが <スレーブT> をかすめ、――いや、レーザーではない――100メートル過ぎたところで炸裂した。フェットは宇宙空間をえぐるように下方に <スレーブT> を飛ばして爆風から逃れた。機体がまるで巨人に掴まれシェイクされているかのように激しく揺れ、上下左右の制御を不可能にした。
敵は全部で四機、自分たちの仕掛けた攻撃によって生じた爆発を回避しながら、<スレーブT> の頭上をもの凄いスピードで通過した。まるで未完成の戦闘機のような骨組みの塊といった外貌に、左右に二基ずつ取り付けられた細長い楔形の砲身が目を引く。センサーが感知したのも四機だった。つまり、今のところ彼らはプログラム通りに隊形を組んでいるようだ。
爆風とスラスターによる反発力に機体を委ねながら衝撃を吸収し、すぐに体勢を立て直して上方に180度の急ターンをした。一瞬前に <スレーブT> がいた空間を光線が貫く。フェットは敵のいる方向を推測し、わざと真っ直ぐに追われるようにぐんと機体を持ち上げ、後方のセンサーに直線を引かせて敵機を捕捉した。
完璧な統制のとれたドロイドの隊形がディスプレイに赤点で表示され、悲鳴のような警告アラームが再びフェットの耳をつんざく。彼らは執拗に <スレーブT> を追跡しながら、今度は猛然とレーザー・ビームを放ち始めた。スピードは明らかに彼らのほうが勝っているが、幸いなことに彼らのプログラマーはマニュアル以上の戦術を追加するほど機転は利いていなかったようだ。四体のドロイドは帝国軍のパイロットなら上官を呆れさせてしまうほどワンパターンの攻撃しかしてこない。いまだに隊形を崩す意志のない彼らは <スレーブT> を夢中で追いかけ、懸命に相手のシールドを叩き続けた。
予測が正しければ、このドロイドたちの頭脳回路は戦場が一定の法則に達したと状況確認したところで、突発的な不測の事態に対処する判断力を数秒間失う。フェットはヘルメットの中で口元をほころばせた。何のことはない、無邪気について来る公園の鳥たちにパンくずを落としてやればいいだけのことだ。
背後から次々と撃ちまくるドロイドの攻撃を掻い潜りながら、<スレーブT> は機体下部の装甲プレートの一部に口を開け、中から十数個の宇宙機雷を撒き散らした。機雷はドロイドの視界を遮るように蜘蛛の巣を形作って展開し、すぐに流動する巨大な膜を完成させた。
四体のドロイドはことごとく機雷の膜に突入し、背を向けた <スレーブT> のキャノピーさえも照らすほどの閃光を放って爆発した。よせばいいのに爆発を免れた機雷たちはドロイドの残骸に向かって吸いつくように突進し、再び宇宙空間を激しい鮮やかなオレンジの花火で彩った。
爆発が完全に収まったところでフェットは <スレーブT> をUターンさせ、何もなかったかのようにハイパースペースに手際よくジャンプした。
* * * * * *
目の前のビューポートから <スレーブT> の機影が消えると、インセクトイド型軍事ドロイドのDP−G1はバイノキュラーに似た特殊な視覚装置を顔から離し、左胸の通信機を手に取ってスイッチを押した。
彼の音声は紛れもなく人間の男性の声を機械音化した不自然なものだった。「リシーカーは全滅しました」
通信の相手もまた、男性の声でベーシックを話した。「“奴の船は損傷を負ったか?”」
DP−G1は感情のない、無機質の声で応じる。「機体そのものに損害は全くありません。すべて、計画通りです」
クローキング装置が解除され、DP−G1の乗る船艇が宇宙に姿を現した。ホーネット・インターセプターの翼を外し、そのまま大きくしたようなその宇宙船は、先ほどまでボバ・フェットとドロイドが戦った場所のわずか3キロメートルほど離れた位置に留まっていた。ゆっくりと前方に動き出し、文字通りハチの羽音のようなエンジンの轟音を上げた。
「これよりシャトレガーに向かいます、マスター・シャドウ」
触手に似た細い推進ノズルからイオン粒子を噴射し、ホーネット船は <スレーブT> と全く同じ航路にハイパースペース・ジャンプした。
* * * * * *
「貴様、正気か?! あのオルーヴァ・ザ・ハットはアウター・リムでも屈指のギャングだぞ!」
デュラスチール製の細長い鉤爪に似た建材がびっしり並んでいる壁が、パーディブル将軍の太い怒鳴り声を虚しく吸収する。完全な防音効果は室内の物音にさえ影響を与え、この円形の会議室は不気味なほど静まっていた。
褐色の肌をもつ細身の男、アーク・レマジオンの表情は、この部屋の雰囲気に合わせて置かれた木像かと思わせるほど落ち着いていた。部屋と同じく円形のテーブルを取り囲む十一名の表情とはあまりにも落差があり、もし種族が皆同じであっても組織における実質的な地位は明確に判別できたであろう。
レマジオンの左隣には、犯罪王マクソゾル・コフィーンの支配惑星アヴァドゥイーンにおける武器密造を取り仕切るローディアン、エッフェ・ドニードが席についている。彼はこの理事会合が始まってからというもの、レマジオンのすぐ近くに座ってしまった自分を呪い、始終苦虫を噛み潰したような表情を弛めずにいる。この位置はレマジオンの発言にことごとく反論する理事の怒声が直接耳に突き刺さってくるのだ。無理もない、テーブルの右側には頑固で我の強いメンバーが集中しているのである。
ドニードに続いて席につくのが、黒光りした嘴のような鼻づらが特徴的なオセゴのシウィドス・デリプト。組織でも指折りの日和見主義者である彼は、時と場合によって味方を変えることで知られており、他の理事からはほとんど当てにされていない。もちろん、今はレマジオンに怒号の雨を降らす役目を必然的に担っている。
それからカボチャのような頭部をもつブリキスティル・ハウンゼイ、ベサリスクのマクスファー・トトメリックと続き、肥満したクラトゥイニアンのパーディブル将軍が右翼勢を締めくくる。名の知れた多くのハットとのコネクションを維持することが賢明であると悟った彼は、数年前からコフィーンの組織と独立した事業を始めている異端者であり、最も関わり合いを敬遠される理事の一人である。その彼が他人のハットとの癒着や背信行為を厳しく非難する様は愚かしく、説得力のないものだった。
レマジオンの真向かいにはシスタヴァネン・ウルフマンのピッタル・ブルークが座っている。彼はその左隣のブラッブ、ドルイド・ナバキとともにトルマー星系の名ばかりの採鉱企業を経営している。最近大量のスタイラス・シップがライナス・クレイゴンの海賊団に奪われ、二人とも生気を失ったように意気消沈していた。無論、この会合でも両者は口を閉ざしたままだ。
左翼側で異彩を放っているのが三つの竜のような頭部をもつカリカン・デーモンのオリヴォルンだ。真紅の鱗に覆われ、分厚い巨大な翼を背に折り畳んでいるが、それでもヒューマノイド二人分の空間を占拠している。アザキシムと呼ばれる気体に覆われた母星カリカの支配者ベオスキロンの娘である彼女は、王位継承を巡る反体制派との戦争で父親を裏切り、国外追放されてしまった。アウター・リムを放浪していたオリヴォルンを匿ったのがマクソゾル・コフィーンであり、彼女は生涯をかけてこのアンクスに命を捧げる決意を固め、暗黒街へと身を投じたのだ。酸素の影響で漆黒の鱗は真っ赤に染まり、生存するために常にアザキシムを満載したタンクと呼吸器を必要とする。鱗と同様に赤く輝くこれらの特注の装置は、ただでさえ醜悪な彼女の風貌をより仰々しげに見せている。
彼女の左隣の人間はマラディ・ダクソンという名の男で、その物腰はギャングというよりビジネスマンを思わせる。ハットとトワイレックの間で取り交わされる協定の仲介をしていたという経歴の持ち主であり、頭の切れる男だとコフィーンに太鼓判を押されている。だが多くの理事の間では最も狡猾なのが彼だと噂されていた。
この会議室でレマジオンに共鳴するものがいるとすれば、それは残りの二人、ゼヘスブラのロブリンとサキヤンのパレシャッド・コダールに希望が委ねられる。だが、両名の眉間は揃って皺が寄っており、口も一文字に引き伸ばされている。どうやら、レマジオンは孤軍を強いられているようだ。
「それだけではない。奴は我々の領域を特に欲しているハットだ。その証拠に、奴はボスクをつけ狙っている」
ハウンゼイのくぐもったベーシックはハット語訛りと相まって、ひどく聞き取りにくい。
シウィドス・デリプトが続く。「海賊と手を組むなど言語道断だ! ドーランツやカヴリルフーも、一度でもブラスターから手を離したことがあるか?」
「グレート・コフィーンはあの屑鉄拾いどもの首を欲しがっている。これは唯一公にオルーヴァ・ザ・ハットと意を異にしている主張だ」
幾分冷静な物腰で意見を述べたオリヴォルンの右側の頭部を、レマジオンは満足げに見据えた。このカリカン・デーモンは今のところ、自分のボスに対する彼の計略を糾弾する気はないようだ。
オリヴォルンは続けた。「高名なグレート・コフィーンを支持する星系は数え切れぬ。また、かつてのナー・シャッダでの一件を忘れた者はいるまい。相対する敵の多い陣営に傾倒する勇気のある者が、ここに残っているとは思えんな」
パーディブルは彼女のあからさまな侮辱に反論しようと口を開いたが、すぐに思いとどまって肺に溜めた空気を鼻から吹き出した。クラトゥイニアンは一般的に“力”に容易に屈服し、忠誠を捧げる対象を好んで選定する種族だと言われる。この闇事業家はそのような同胞たちを下劣だと見なし、たとえ相手がハットであろうと自分が優位に立つことを常に望んでいる。コフィーンの最も信頼する腹心の一人であるオリヴォルンの挑発に乗じることは、彼にとってこの上ない恥辱なのだ。
それに、この会議室の勢力図の上では、彼女はパーディブルにとって友軍の一人である。それを忘れてはならない。
「その通りだ」レマジオンが口を開いた。「我々は利益を追求するより、損害をいかに退けるかに関心を向ける必要がある。現段階ではこの計画に不快感を禁じ得ぬのも無理はない。しかし、奴の策謀とおよそ縁のない犯罪者に害をもたらす力はないのだ。現段階ではね」
理事たちは彼の言葉を咀嚼するため、ざわめいた。
「待て。“奴の策謀”とは何だ? 私の知る限りでは、オルーヴァ・ザ・ハットの目論見はクレイゴンの海賊行為を合法化することだ」ブラッブのドルイド・ナバキが言った。「レマジオン、明確にしてもらおう。私の鉱山が五つも作業中断に追い込まれているのだ。君が我々の同意を得ずに海賊と接触するのは自由だが、ハットに関しては意味が違う」
レマジオンは子供の演奏会を鑑賞しに来た親のように、満足げに笑みをもらした。「的確な指摘を感謝する。確かに、私は君たちの同意を得るつもりはない」彼は視線を上げ、天を仰ぐようにして両手をテーブルに落ち着けた。「質問に答えよう。オルーヴァとて、クレイゴンの存在は今のところ、邪魔者以外の何者でもない。だがもちろん、グレート・コフィーンを含め我々の領域で行われる略奪には諸手を挙げて歓迎している。今回の相互不可侵協定で奴が最も期待しているのは、我々の交易ルートが侵害されることによって起こる――」
彼の間は、理事たちにとって永遠かと思われるほど長かった。「協定決裂に他ならない」
もしこの会議室に防音効果がなかったら、理事たちの驚愕と怒りが入り混じった阿鼻叫喚の声は、建物中のすべての者の注意を引くほど凄まじいものだったに違いない。やがてそれらは滝のような怒号に変わり、彼らの背後に立つ副官たちは、理事の振り回す腕にぶつからないよう一歩退かなければならなかった。
アーク・レマジオンは、準備の済んでいないアリーナにネクスーを放ち遊ばせるがごとく、その様子を見守った。
数分が経ち、ようやく理事たちが咽喉の限界に達して落ち着きはじめると、喚き合いに加わらなかったオリヴォルンが三つの頭部をナンバー・ツーに向け、極めて珍しいことに三つの口を同時に開いた。
「我々は君に敬意を払っている。今までも、そして、これからも」不気味な協和音が室内の温度を一気に下げた。「ナバキの問いに対するその答えは、真実として受け入れよう。だが我々にはもうひとつの答えが必要だ。君がその目論見を知っている限り、我々は君がすでにオルーヴァ・ザ・ハットと内通しているという疑惑を拭いきれぬのだ」
「それに――」まだ肩の力が抜け切れないパーディブルが続いた。「協定が決裂することであのハットが何を得る? 全面戦争か!?」
「落ち着きたまえ、将軍」レマジオンは足元でねだる子供を諭すようにその言葉を聞き流すと、オリヴォルンに視線を戻した。「君らしくないな。何も強張ることはない。私は君たちの味方だ。我らの安寧秩序を紊乱する輩を排除するため、高名な理事諸兄姉に協力してほしいだけだよ」
「その協力というのは、我々に静観していろということか?」デリプトが叫んだ。
レマジオンは口を開くタイミングを確保するため、咳払いをした。「もちろん、それもひとつの策応ではある。ただし、必ずしもそれが賢明であるとは言いがたい」彼は流すように理事全員の顔色を窺った。「グレート・コフィーンの命により、私は二人の賞金稼ぎを雇った。彼らの仕事は、密輸業者のジョージ・カーダスを暗殺するためにオルーヴァが雇ったボバ・フェットを監視することだ。現在も追跡は順調に進んでいる。私は彼らが手間なく任務を遂行できる環境を、君たちが準備してくれることを望む」
十一名の理事たちがそれぞれの気色に目を配っている間に、レマジオンは背後に控える側近の女性トワイレックに耳打ちした。彼女は音もなく会議室の司令コンソールに向かい、麗艶なドレスの胸元から取り出したホロ・ディスクをデータパッドに差し込み、スイッチを押した。
円卓の中央に突然現れたホログラム映像には、あまりにも有名な男の勇姿が映し出されていた。目にも止まらぬ速さで、何十とも知れぬ大群で襲い掛かるダグを撃ち殺しているその装甲服姿は、彼らにとってコルサントで最も名声を轟かすホロスターよりも馴染みのある存在なのだ。理事たちは初めこそ驚いたものの、すぐにレマジオンに懐疑的な視線を浴びせ、この映像を見せる意図を問いただした。
「これは何だ、レマジオン? こんなものを改めて見なくとも、我々はひとり残らずこの男の能力は承知している」
ハウンゼイの言葉に眉をひそめたのはマラディ・ダクソンだけだった。「愚か者めが。こいつは君が想像している男とは別人だ。よく見たまえ。ヘルメットや装甲板の色も違えば、ボディ・スーツも艶のある黒皮。よく似ているが、あのボバ・フェットとは装備も武器も全く異なっているではないか」
「その通りだ、ダクソン。この男はボバ・フェットではない。彼こそ、私が何年も掛けて探し出した旧共和国時代の誇るべき遺産、失われた伝説の唯一の証人だ」レマジオンは繰り返し再生されるその映像を眺めながら続けた。「彼の名はJ・F・L・シャドウ。何のコードネームかは定かではないが、自らをこう名乗っている。この映像はマラステアの軍幹部に雇われたときのもので、腕を確かめるためにダグの囚人と一戦を交えさせたらしい」
パーディブルは明らかに動揺した面持ちで、一時の傲慢な態度は鳴りを潜めた。
彼の様子を見て取ったレマジオンは、突き刺すような視線をクラトゥイニアンに向けた。「どうした、将軍? 何か問題でもおありかな?」
額の冷や汗を拭い、パーディブルは首をひねって同族の副官に囁きかけた。副官は即座にきびすを返し、足早に会議室を出て行った。
「いや、何でもない」副官の背から目を離し、改めてホロ映像に向き直った。「旧共和国時代の遺産とは、一体どういうことだね? 我々にも分かる表現で説明してくれ」
ロブリンが切り出す。「いや、その表現は実に明瞭だ。少なくとも私には、それがあのマンダロア戦士団のことであるとすぐに分かった」
パーディブルはゼヘスブラをあからさまに睨みつけた。
「彼がその賞金稼ぎのひとりだ」レマジオンは続けた。「もうひとりは女コレリア人で、このマンダロア人の生き残りと手を組んでいる」
ホログラフが切り替わり、藍色のジャンプスーツと物々しい装備に身を包んだ女戦士が映し出された。今度は静止画で、おそらく犯罪者リストに登録されている画像だと思われる。薄汚れたブロンドの髪の毛はうなじの辺りでばっさりと切られ、赤茶の瞳は狂気を宿したかのようにぎらぎらと燃えている。レマジオンは、彼女の名はイオリマーで、クローン大戦以前に暗躍した殺し屋の子孫であると説明した。
「君たちの支部には随時、彼らの動向を追った情報を送る。願わくば、君たちにはローカルのスパイや情報屋を周旋してもらいたい。ボバ・フェットを相手にするのは、我々の協力なくしては決して安易なことではない」
レマジオンがそう言うとホロ映像は消え、室内は元の薄暗い洞窟のような空間に戻った。誰もが他の理事が何事かを詰問するものと構えていたが、口にするものはなく、罵声と叫号の飛び交った会合は一転、不気味なまでの静寂とともに幕を閉じた。
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4.追跡
生態系の頂点に君臨するクレイト・ドラゴンさえ、捕らえた獲物を横取りしようと集まってくる狡猾な捕食者たちには注意しなければならない。岩陰では恐れを知らぬアヌーバや、猛毒を持った危険なロック・ウォートが、上空では死肉を喰らうウルザイの群れや、岩をも砕くボーンノーアが、一瞬の隙を忍耐強く待ち構えながら襲撃のタイミングを見計らっているのである。それだけではない。砂嚢に秘められた希少なドラゴン・パールを狙う密猟者、伝説の主人公となるべく死闘を挑まんとするタスケン・レイダーもまた、好機あらば多勢を成してその首を地に落とすべく奇襲に現れるのだ。多くのライバルからの攻撃に対処する術を持たない者は、瞬く間にその座から転げ落ちることになる。
賞金稼ぎとしての絶対的な地位を確立したボバ・フェットにとって最も厄介なのは、彼の手腕を妬み、彼の死を心から願う同業者たちに他ならない。ある者は名声を得ようと暗殺を企て、ある者は捕虜を強奪せんと急襲を仕掛ける。フェットはその度に妨害者たちをことごとく返り討ちにしたが、身知らずな襲撃者は後を絶たなかった。――あの忌まわしい蛮族のボスクもそのひとりだ。
だがフェットにしてみれば、彼らのように単純に対決を挑もうと息巻く連中はまだ面倒はない。かつてジョドー・カストと名乗る最悪のペテン師が頭角を現し、死の代理人の名をほしいままにする彼の経歴に泥を塗った事件は、賞金稼ぎの間でいまだ記憶に新しかった。
カストが所属していたハウス・オブ・ベネレックスという傭兵組織に依頼して、彼に架空の賞金首を追跡させたフェットは、ナル・ハッタの密林の奥深くで待ち伏せし、自分とそっくりの装備をまとったこの偽者に引導を渡した。この事件がどれほどの者に知れ渡っていたのかは定かではないが、少なくともあのオルーヴァ・ザ・ハットは自称“銀河屈指”の情報網によって抜け目なく調査をしていたようである。
もし新たに第二のジョドー・カストが活動を起こしているのなら、オルーヴァにとって格好の用材となるのだろう。そいつとボスクを使って奴が企みを練っていることは間違いなさそうだが、今はそのことで気を紛らせている必要はない。
予定通りの時刻にハイパースペースから通常空間へと飛び出ると、センサーに複数の発着ブイを捉えた。
商工業都市シャトレガーは、ハット・スペースに属する惑星の中でも比較的治安は安定している。銀河内乱期には帝国軍に侵攻されたため、現在でも主要政府は新共和国側に傾倒しているといわれるが、首都コルサントへのアクセスが非常に難しいことから、ほとんど行政には関わりを持たない。それでも周辺宙域に蜘蛛の巣状に張り巡らされた自前の航路によって、通商面でもとりわけ豊かな収入を得ている。
爽やかに照りつける太陽から逃れるように、フェットは <スレーブT> を惑星の夜の面に飛ばした。地表の三分の一を占めるアスチェス大陸の右半分はすでに日没から四時間は経過しており、早朝の卸売開始に間に合うよう、何百何千の輸送船が往来している。このすべてが大宇宙港ダンキーマンダに用事を抱えているのだ。フェットは積荷を運ぶ艦船の群れがひしめくカターリアン通商ダクトの進入エリアに機体を運び、管制塔からの接触を待った。
ややあって通信機が受信音を奏でた。「“搬出コードと登録番号を送信してください”」
フェットはいつもの調子で架空の交易業者に成り変わった。「こちら <アクエリアス・シェイド>。登録船じゃない。今日中にエグザマートにパーンガムを届けなきゃならないんだ。IDを送る」
管制官はその答えを疑りもしなければ、興味も示さなかった。彼らは輸送船の離着陸を規制しているに過ぎず、一日に百件は訪れる緊急の物資搬送のひとつとして堅実に事務をこなしているのだ。また、リゾート開発に急くこの宙域では補強建材の一種であるパーンガムの配送は日常的に行われており、しかも早急に必要になることの多い物資のひとつだった。
フェットは前もって用意していた偽のIDを送信し、再び返答を待った。
「“<アクエリアス・シェイド>――”」今度は十秒ほど間があいた。「“貴船の型式ではダンケル・サイトに進入できません。赤道バイパスを利用するか、マルポリで連絡船に積荷移動をお願いします”」
「急ぎの用でね。明日にはベスタルに着かにゃ、首が落ちるよ」
もちろん、遠回りではあるが赤道バイパスに乗るのは最良の策だ。だがあくまで彼は緊急の仕事に追われる輸送会社の平社員であり、間に合わせの個人機で一秒でも早く積荷を目的地へ運ばなければならない。管制官はフェットの冗談に付き合う気もなく、再び別のルートを手配すべく沈黙した。
一回ごとに通信再開の間隔は長くなった。「“<アクエリアス・シェイド>、56番ラインへの進入を許可します。搬出コードとドック番号を確認するまでそのまま待機してください”」
「オーケー、助かったよ」フェットは小さじ一杯の苛立ちを含んでそう告げると、受信内容を保存するや即座に <スレーブT> を進入エリアに向け、他の輸送船の間を縫うように勢いよく発進した。
* * * * * *
六角形を形作る信号塔に囲まれたドッキング・ベイの進入路では、<スレーブT> を含む無数の輸送船や連絡艇がスカイレーンに並ばされていた。辺を成す隣同士の塔はそれぞれが青白い粒子を放つ衝撃吸収フィールドで結束され、真上から覗くとさながら稲妻でできたトンネルのように見える。六角形の底部からは各々の倉庫や集積庫に続く、ビルとビルの間を走るスカイレーンに分かれていた。フェットは管制官から受け取った情報を確認し、信号塔の頂上を通過すると通信機の周波数を地元の交通情報センターに合わせた。
「“ダンケル交通情報サービスです。こちらはカターリアン通商ダクト、56番ラインからの通信を受け付けております。ご用件をどうぞ”」機械じみた女性の声が言った。その声調からは肉声なのかコンピューターに録音したものなのか、またはドロイドの音声なのかは判別できなかった。
フェットは再び無害な交易業者に成り済まし、口を切った。「P−639番ドッキング・ベイへの道順を知りたい」
「“P−639番ドックへの道順ですね。かしこまりました。ナビゲーション・ドロイドをお送りいたしますので、貴船のIDを送信のうえ、しばらくお待ちください”」
先ほどの管制官とは違い、通信の手際が恐ろしいほどに早い。ドロイドでなければ成し得ない神業だ。この惑星の交通システム管理はドロイドが主体となっているに違いなかった。その上で軌道管制に生身の職員を配置しているのは、ある理由で警備を一段階強める意図がある可能性を示す。だが管制官の声と対応からは、その緊迫感は全く感じ取れない。何かが起こり、その生々しい記憶が彼らの頭から消えようとしているくらいの時間が経過している。フェットはそう推測を立て、頭の片隅に据えておいた。
<スレーブT> が信号塔の最下部に達したとき、どこからともなく前方に赤いボディの浮揚ドロイドが現れた。スマッシュボール大の小型衛星を思わせるそのナビゲーション・ドロイドは、両翼に取り付けられた一対の円盤状のソーラー・パネルをジャイロ部分から巧みに動かし、方向転換などの細かい制御を行っている。このデザインは紛れもなく帝国軍のTIEシリーズを模倣している。パネルに挟まれた球体の正面に、一つ目の大きな視覚センサーがぎらついているのを想像するのは難しくなかった。
指定されたドッキング・ベイへは十分足らずで辿り着いた。エリアドゥやメテロスに匹敵する超高層ビルのジャングルを抜け、地平線まで達しようかという広大な集積場の上空を行くまでにおよそ五分間。黎明時のほの暗い曇り空はスモッグに覆われ、真っ暗な集積場に導灯や宇宙船の亜光速エンジンが発する明かりが散らばる様のほうが、よほど夜空に相応しい。その中を飛ぶ間にも複数の巨大輸送艦が離着陸を繰り返し、おびただしい量の積荷を満載して地下トンネルや路面を急進する無数の貨物機を眺めることができた。スカイレーンは集積場を越えると、円形のダンケル・サイトの中核に位置するドック区域に続いており、蝿のように無駄な動きの多いナビ・ドロイドの飛行が危なっかしく見えるほどに隆起した着床ベイなどの建造物の隙間を縫っていく。そうして五分もしないうちにナビ・ドロイドはベイのひとつに吸い込まれるように降下し、<スレーブT> を指定のドックに導いた。
巨人の手のひらのようなP−639番ドッキング・ベイは、雑然としているが無人だった。古めかしいR1アストロメク・ドロイドや秤のような腕のバイナリ・ロード・リフターが着床ベイの周囲を行き交い、四本の付属肢をだらりと下げて宙を彷徨うMN−2Eがそれらの大型ドロイドの作業を邪魔しないように入港管理システムの点検をしている。
フェットは昇降路を悠然と降り、光化学スモッグに包まれた彼方の地表を眺めた。ここからターバスという情報屋が滞在していた宇宙港の繁華街までは、ドック区域から波状に伸びる公道を使えばすぐに着く。計画的なインフラ整備で発達した都市の中でも、ここほど単純な造りは比類がない。増設に増設を重ねて肥大化するコルサントとは雲泥の差だ。
情報収集には事欠かないシャトレガーだが、身を隠すには少しばかり条件が悪い。追跡者がボバ・フェットのような腕利きなら尚のこと、逃亡者は不幸としか言いようがない。
* * * * * *
ボバ・フェットとの通信を終えてから一時間も経たないうちに、追跡ドローンからの最初の報告が届いた。意外なことに、<ハウンズ・トゥース> はコフィーンの権勢が強いボー・シュッダ星系に入っていた。ボスクは明らかにライナス・クレイゴンの所在を突き止めるべく、早急に情報収集に取り掛かるつもりなのだ。
<ブッチャー> の謁見の間全体を見晴るかす位置に置かれた豪華な台座の前から、イシ・ティブの通信士官がきびすを返して立ち去った。台座にどっしりと身を横たえたオルーヴァは、しばらく口を閉ざしたまま、ここ数日ずっと頭に思い描き続けている戦略図を熟考した。
傍らのスタラス・デネミスは、長く執事として仕えてきた経験から、主人のこの様子にどう配慮しなければならないか心得ていた。決して口を挟まないことだ。この思慮深いハットは、慎重に慎重を重ねることで幾多の成功を収めてきた。どんな行動に際しても、徹底した戦略を捻出することが重要だと考えるオルーヴァの「瞑想」を邪魔する者は、常時 <ブッチャー> に積載されている飢えたハルグレンの餌食になる。デネミスは彼の怒りを買い、この恐ろしい極刑に処された愚かな部下たちを何人も見てきたのだ。
研磨された玉虫色の角を撫でながら待機するデネミスに、オルーヴァはようやくその巨大な顔面をゆっくりと向けた。
「ボー・シュッダを取り仕切るのは誰だ?」
デネミスは即座に答えた。「パーディブルです」
オルーヴァは正面に向き直り、フーカー・パイプを銜えた。「デシリジクにパイプを持つ男だな」
鮮やかなシマーシルクの絨毯を敷いたハット・サイズの台座には、艦内の管理区画や航行コンピューター、通信室、各キャビンへ指令を送ることができるよう、戦略分析コンソールや各種ディスプレー、インナーコムといった装置が、すべて左側に集中的に設置されている。オルーヴァは台座でくつろぎながらも、大抵の指示を全区画へ与えることができるのだ。通信機のスイッチを押し、オルーヴァは操艦区画を呼び出した。
「“マスター、あと45標準分でナル・ハッタに到着します”」
オルーヴァはこともなげなその答えを無視した。「ボー・シュッダ星系の最近一ヶ月の航跡情報を洗い流せ。データ収集にはドローンをいくつ使ってもいいが、偵察機は使うな」
「“了解。しかし――”」
「ああ、そうだ、ここからはドローンは飛ばせん。ボー・シュッダ星系に針路を変えろ!」
操縦士の凍りついた表情が、まるで実際に見ているかのようにはっきりと声に現れた。「“りょ、了解しました。針路変更のため、一旦ジェタックへ光速離脱します”」
この操縦士の脳裏には、一瞬でもハルグレンの醜怪な姿が映ったに違いない。オルーヴァの配下には無能な者は必要ない。篩に掛けられた精鋭のみが、この <ブッチャー> で生き延びることができるのである。
デネミスは自分がこの一人であることに、密かに優越感を感じた。
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5.背信
「どういうことだ! あの男はなぜシャドウのことを知っている!」
突然昇降ドアから駆けて来たパーディブルに胸倉を掴まれたビーガー・ショルトサンは、驚きのあまり脚をふらつかせ、風船のような理事の腹に上体を預けるような格好になった。
パーディブルはその勢いのまま、ショルトサンを操船コンソールの前まで押し出した。「それどころか、シャドウはあの男と雇用契約まで結んでいる。誰がそれを許可した?!」
ショルトサンは類まれな状況把握の業を振るい、こう答えた。「な、何のことだ?」
もちろんパーディブルはその答えに満足はしなかった。ショルトサンの襟を掴んでいた両手を脇に投げやり、憤怒を発散するかのようにかぶりを振りながら背を向けた。
「レマジオンはシャドウを雇った。監視だとか言っていたが、そんなことはどうでもいい。なぜ奴がシャドウと接触することができたのか。それに、どうやって情報を得たのか、だ」パーディブルはありったけの皺を寄せた顔でショルトサンを睨んだ。「裏切り者がいるようだ。貴様のその疑わしい管理能力に信頼を置いていたわしに落ち度があるか?」
ようやく理事会合で何があったのか理解したショルトサンは、乱れた襟を整えながら、コンソールに乗り上げた上体を起こした。「内通者がいると? まだ決まったわけじゃない。奴は権力者だぞ。情報収集が趣味の男だ」
「なるほど、その通りだ。情報を集めるためには、どんな手段にでも打って出る。贈賄なんぞお手のものってわけだ」
パーディブルは背後に控えめに立っている副官に顔を向けた。「シャドウは今どこにいる?」
クラトゥイニアンの副官は、まるで死を宣告されたかのように肩を強張らせた。「本来なら、マラステアから定期的に連絡が入るはずですが、最近になってバブラはその義務を怠っています」
「心配ない。あの女はマクソゾル・コフィーンに弱みを握られてるんだぜ。ただ少しばかり――」ショルトサンは思わず口ごもった。「手がつかなかったんだろう。そのうち連絡は入る」
クラトゥイニアンはもはや睨む労も惜しんだ。「手がつかないほど押し迫った状況を作るなど、わしは許可した覚えはない」
象牙色の短袖を撫で、ショルトサンは両手を体の前に広げた。「落ち着けよ、将軍。音信不通なら、俺たちのほうからコンタクトを取ろうじゃないか。思い詰めるのはその後だ」
憮然と腕を組むパーディブルに歩み寄り、ショルトサンはその肩に手を載せた。「イガリー・バブラは何もできやしない。この計画は彼女にとっても賭けなんだ。むしろ誰よりも成功することに意義を感じてる。レマジオンはハッタリをかましたんだ」
パーディブルは自分の肩に置かれた彼の手を振り落とし、冷静さを主張するように肩をすくめた。「だといいがな」
「俺はバブラと連絡を取ってみる。その間、あんたはキャビンでゆっくり休むといい。今は俺に任せろ。この計画の成功は、最終的にはあんたの力が不可欠なんだ」ショルトサンは再び彼の肩に手を置いた。「今はまだその時じゃないぜ」
* * * * * *
「今は少し都合が悪いと。ハットはそう言伝を残していたそうです」
人工頭脳MR−9が発する複数の機械音が、絶妙に折り重なってベーシックを奏でる。レマジオンは黒いなめし革のカウチにゆったりと腰を落ち着け、MR−9の報告に耳を傾けていた。
実体のない人工頭脳は続けた。「彼はマドリス星系の件を調査するゆとりがない、これはマーサイゲンの見解です。ボスクを追跡していたハットのドローンは、計画通り囮船を追いかけ続け、ボー・シュッダ星系に入りました。オルーヴァはこれを自艦で調査するものと思われます」
「ボスクはどこへ向かった?」レマジオンは目頭を親指と人差し指で強く押さえ、目をつぶった。
「マラステアです」
指を離し、レマジオンは鼻で大きくため息を吐いた。「驚くほど、理想的な展開だな」
MR−9は沈黙した。
オルーヴァ・ザ・ハットとの連絡役を務めるマーサイゲンは、シュプルスゲンシェルと呼ばれる神秘的な種族である。かつてドゥイヌオグウィンの下僕として仕えていたとされるシュプルスゲンシェルには、フォースに似た特殊な偶有性能力が備わることがあり、マーサイゲンはその天賦に与った数少ないひとりである。彼はその性質のおかげで、ホロ通信やドロイドの発するシグナルなどを第六感のように感知することができ、MR−9とテレパシーのように意思疎通を行うことができる。
目下、マーサイゲンはオルーヴァの放ったドローンの思考回路に侵入していた。
「マーサイゲンに伝えろ。第二段階に入った。ボー・シュッダの“友達”を起こせ、とな」
「仰せの通りに」
耳聡いオルーヴァ・ザ・ハットがマドリスの一件を見す見す逃すはずはない。自ら赴かなくとも、遅かれ早かれ配下の調査隊を差し向けるだろう。そしてボスクとの小競り合いの末に拘留された双子のサイリンディーリから警察が聞きだす予定の、虚偽の供述を耳にするだろう。そしてハットはレマジオンの本当の計略を知ることになるのだ。
意外だったのは、あのハットがジョージ・カーダスの抹殺をボバ・フェットに依頼したことだった。あの悪名高い賞金稼ぎは、狙った獲物を逃したことはほとんどない。いや、結果的に彼に追われる者は必ずその魔の手に屈していた。請け負った仕事をしくじる可能性は、まずないと考えていいだろう。そうすると、レマジオンが仕掛けた蜘蛛の巣にまんまと掛かったこの名高い賞金稼ぎは、自分がサバックの捨てカードに過ぎなかったと知ったとき、どのような反応を示すだろうか。
これは実に興味深い。銀河屈指の殺し屋が、史上最大の茶番劇の主人公になり果てるのだ。
コフィーンの雇ったバーゲル・ザ・クルセーダー、そして軍事ドロイドのDP−G1は、そろそろフェットの目の前で面白いショーを演じる頃だろう。バーゲルにそれとなく情報を漏らす命を帯びていたバンラの正体が、あのフェヴハイに暴かれたのは仕方がない。彼の種族の貴重な生き残りの数を、残念ながらひとつだけ減らすことになるだけのことだ。
彼の自室のインターコムが唸りを上げた。
「入れ」
シュッと音を立てて昇降ドアが開き、軍人のように敬礼する人間の通信担当員が現れた。
「グレート・コフィーンから伝言を給わりました」
レマジオンはまだカウチの上で疲労した体をぐったりと休ませながら、手を振った。「何と?」
「至急モルティオードに来るように、とのことです」
レマジオンは瞼を閉じた。「用件は?」
「理事会合の報告をせよと」
「報告書は送ったはずだ」
通信担当員は少し考えてから、こう答えた。「人間の賞金稼ぎたちのことで話があるとか」
なるほど。どうやらコフィーンはレマジオンの忠誠心にそれほど信頼は置いていないようだ。手下たちが影で「真の右腕はオリヴォルンだ」などと噂している通り、あのアンクスはレマジオンを腹心として見てはいない。病的にコフィーンに心酔するオリヴォルンこそ、この組織を受け継ぐ最有力候補だというのは、レマジオンも認めるところだ。
有能な人材を失うのは惜しいが、あのカリカン・デーモンは排除せねばなるまい。もっとも、先ほど列席していた理事たちは皆、ひとり残らず姿を消してもらわなければならないのだが。
「シャトルを準備しろ。十五分後に出る」
「かしこまりました」
通信担当員が退室すると、レマジオンはカウチから腰を上げ、背中を伸ばして深呼吸をした。キャラクタンである彼は極めて人間に近い種であるが、コフィーンのアレルギーには影響を及ぼさない。この組織に加わった当初はその事実を好都合に受け止めていたが、今となっては無念でならない。自分の体から吹き出す汗によって、コフィーンが発作を起こす光景を眺めることができないのは残念だ。
だが、その無力感を味わうのもあと少しの辛抱だ。何年も掛けて準備してきた労が、もうすぐ報われることになる。万事うまく運べば、あのアンクスの絶望に満ちた苦痛の叫び声を聞きながら、忌々しいベタックス宮殿を破壊し、新たに築いた要塞とともに権力の座に腰を下ろすことができるのである。
もう少しの間、マクソゾル・コフィーンに追従する忠実な右腕を演じてやろうではないか。
* * * * * *
もう半年ほどもこの管制室にこもりっきりになると、まるで自分がドロイドになったかのような錯覚にとらわれることがある。そう、本来ならこの席は管制ドロイドのための空間であり、生身の作業員を配置するよう想定した造りにはなっていないのだ。RXシリーズを固定する円形のソケットに無理やり回転椅子を溶接し、文字盤の代わりにディスプレーのすぐ横に各キーの用途を記した紙が貼られている。彼の上司がニューロ=サーヴ社製コンソールのガイドラインを頼りに書き記したこの「早見表」も、今ではすっかり黄ばみに侵された醜態を晒してぶら下がっている。
管制官のヘクター・マセッジは、半年のキャリアでありながら、このセクションではすでに古参のひとりだった。自ら進んでこの部課に配属を希望する者がいないため、航宙学の知識がある新入社員が次々に管制塔の席を埋めているのである。彼らに仕事を教える任を受けたダラ・ジェンスが、管制課設立当初からの唯一のヘクターの同僚だった。
「搬出コードと登録番号を送信してください」
ヘクターは冷めたカフをすすりながら、通商ダクトへ進入する貨物船からの受信内容を確認した。
登録番号DE70032。ヴァンタルグ・ワイナリーのレントだ。管制官になってからというもの、彼のような常連とは公私問わずの知り合いになった。経理課時代からの友人とも、この通信でよく話すことがある。
「“よう、ヘクター。今日も午前様か?”」
「いや、これから経理のほうを手伝うことになってるんだ」
レントは陽気なウィークウェイだ。「“ベスピン・クラウディ・タヴァーンでみんなと呑むんだが、一杯どうだ?”」
「悪いが、今夜は。子どもが待ってるもんでね。早く列に並べ」
「“ああ、家庭は大事にしろ。このハット・スペースじゃ、ろくに旅行にも行けねえ。奥さんによろしくな”」
ヘクターは微笑した。「伝えておくよ」
右腕を伸ばして壁面のロッドのひとつを上向きにパチンと押し上げ、17番ラインの導灯ブイを赤から青に切り替えた。
事件が起こったのは、管制課が編成される少し前のことだ。キャプテン・カレットという密輸業者に率いられた船団が検問を突破し、ダンケル・サイトの宇宙港に停まったあらゆる貨物船を破壊したのだ。動機は不明だったが、おそらく彼らの威信を誇示するための過激行動だったと思われた。警察の調べで、この船団を構成する全ての宇宙船が、あのジョージ・カーダスの所有するものだったことが分かったのである。
帝国の圧制が幕を閉じ、新共和国の統治時代に入ると彼の名はしばらく表舞台に登場しなかったのだが、ここにきて唐突に、しかも密輸業者というより海賊のような襲撃事件を起こしたのだ。彼がまた暴挙を始めるとなると、ハット・スペースの航路のほとんどを牛耳るハットたちは、また頭を抱えることになるだろう。シャトレガーにとっても、由々しき事態だった。
間もなく軌道管制塔からドロイドは撤収され、ヘクター・マセッジをはじめに管制経験のある職員がその勤労に従事することになったのだ。シャトレガーと交易関係にある惑星もまた、厳重な警戒態勢が敷かれた。
だが今やその頃の緊張感は、管制室にはまったくない。退屈きわまる仕事に、誰もが不遇な気分だった。
「カフを入れる?」
ヘクターの唯一の同僚にして、唯一の女性管制官であるダラ・ジェンスが、彼の横にやって来た。ブロンドの豊かな長髪をひとつに束ね、薄桃色の口紅をした彼女は、潜水艦の機関室のようなこの空間では花のような存在だった。夜間最初のラッシュの時間帯を過ぎ、幾分ゆったりと時間を持て余すことのできる頃合だ。ヘクターは少し休むことにした。
「頼むよ」
ダラがコンソールの脇に置いてある彼のコップを取ると、ヘクターは椅子の背凭れに上体を預けて背筋を伸ばし、両手を頭の後ろに組んだ。後ろでダラが熱いカフを注ぐ音が心地よく彼の耳に入ってくる。
両手にカフを満たしたコップを持って戻ってくると、ダラはそのひとつをヘクターに差し出した。
「カークの誕生日だったわよね?」
ヘクターはコップを取った。「ああ」
ダラはコンソールの角に腰を落ち着けた。「残念だったわね。フリットウェイ・パークに行くって楽しみにしてたのに」
「プレゼントにヴェルーチ部長の解雇状を見せるつもりだよ」
ダラは彼の冗談に笑いながら、カフをすすった。「カークより、ここのみんなが喜ぶわ」
ヘクターは熱いカフを味わいながら、目の前のディスプレーやコンソールから逃避するように瞼を閉じた。
突然、甲高い声で右のほうから管制官のひとりが叫んだ。「主任、ちょっと来てもらえますか?」
ヘクターとダラは声が上がったほうを見た。小柄なチャドラ=ファンの若い部下が訳も分からないように顔をせわしなく動かしている。二人はコップを置いて彼のほうへ駆け寄った。
「船籍リストに載っていない型式です」
チャドラ=ファンはディスプレーに表示された、アイサルの巨大蜂のような奇妙な宇宙船の走査映像を指した。ヘクターも初めて見る船だった。
「船長はドロイドのようです。シャンバック・トライアルズ社の巡回船だと言っています」
「スピーカーを開いてくれ」ヘクターは通話マイクを手に取った。「船名は?」
「送信されたIDは、一般に使用されていないものです」
チャドラ=ファンがもうひとつのディスプレーを指した。IDプロフィールは登録情報に切り替わることなく、数字の羅列に表示されている。
「軍事船みたいだわ」ダラが言った。「シュロブ、このIDを保存して」
チャドラ=ファンは小さな手を震わせながらキイを叩いた。ダラは彼の肩に手を置いた。
ヘクターはマイクに向かって話した。「こちら管制塔。貴船の型式はダンケル・サイトによって保護されていません。船名と着陸目的を口頭で確認させていただきます」
通信機は奇妙なことに雑音を発した。「“管制塔、当船はダンケル・サイトに潜入した不審船の追跡を依頼されている。直ちに当船の着陸を許可するよう。さもなければ公務執行妨害罪で処罰される場合がある”」
ヘクターはダラと目を合わせた。彼女は肩をすくめた。
「未確認船」ヘクターはこの船をこう呼ぶことにした。「不審船についての詳しい情報を送信してください」
IDが表示されていたディスプレーに、次々と受信内容が飛び込んでくる。
「ファイアスプレー級の警察艇だと?」ヘクターは表示された情報に目を走らせた。どこかで見たことがあるような気がする。
ダラが短く口笛を吹いた。「ウーヴォWの刑務所で使われてた警戒艇だわ。珍しいわね。アンティークみたいな船よ」
スピーカーが唸りを上げた。「“この船は走査遮蔽装置と虚偽のIDで管制を通過した。すでにダンケル・サイトに潜伏し、破壊工作の準備をしている。当船はそれを当局に報告し、拿捕する権利がある。管制塔はそれを許可し、協力する義務がある”」
「まずいわ。たぶん緊急搬送を装って進入したのよ。シュロブ、非登録船の情報を送って」
巡回船から送られてきた警察艇の静止映像を見て、ヘクターは思い出した。緊急搬送を要請した船に、この型式があったはずだ。これはまずい。主任である自分が、なんと犯罪者に易々と着陸許可を与えてしまったのだ。
「未確認船、この警察艇はダンキーマンダ宇宙港に着陸しました。管制塔の不手際をお詫びいたします。侵入船が含まれると思われる非登録船の搬送情報とドック番号を送信しました。100番ラインへの進入を許可します」
シュロブはすぐにコードを送信した。100番ラインは、要人や警察のために設けられた永久欠番のルートであり、船列で渋滞することはない。
「“管制塔、速やかな対応を感謝する。シャンバック・トライアルズはシャトレガーの協力に対し、礼状を送付するものである”」
ドロイドはそう言うと通信を切り、昆虫のような宇宙船を100番ラインへ飛ばした。
シュロブはヘクターを見上げた。「ありがとうございます」
とてもではないが、お礼を言われる立場ではない。ヘクターはチャドラ=ファンの肩を叩き、自分の席へは戻らず、ドアに向かって歩き出した。
「どこへ行くの?」ダラが尋ねる。
ヘクターは肩越しに振り向いた。「部長に報告してくる。それと警察にな。管制塔がテロリストの潜入を見す見す許し、これから警察沙汰が起きるんだ」彼は苦笑した。「今度はどこに飛ばされるかな? 少なくとも管制塔からは解放される」
ダラは急ぎ足で駆け寄り、ヘクターの体を正面に向けた。「まだ何も起きてないわ」
シュロブや他の部下たちが、心配そうに彼らを見つめている。
ダラは続けた。「部長には私から言っておくわ。あなた、カークが待ってるじゃない」
「いや」ヘクターは手を振った。「あれは俺のせいなんだ。ファイアスプレー級の船にダンキーマンダへの進入を許可したのは俺だ。履歴を見れば分かる」
ダラはまるで、戦場へ旅立つ兵士を見送るかのような表情でヘクターを見つめた。「ほんとなの?」
「ああ、確かだ」
管制室は重苦しい空気に包まれた。誰もが沈痛な面持ちで視線を床に落とし、主任ヘクター・マセッジの不運に心を痛めた。ここにいる管制官は皆、今日がヘクターの一人息子の最初の誕生日だということを知っているのだ。
ダラは告げるべき言葉が見つからず、そのまま黙ってしまった。
「部長より、ベスの大目玉が怖いよ」
ヘクターの冗談は、ダラに恵みの雨のように降り注がれた。彼女は涙を溜めながら、彼に微笑んだ。
ヘクターは部下の管制官たちに向かって続けた。「たぶん、明日からは新しい主任が君たちの上司になるだろう。今まで以上に仕事に情熱を持って取り組んでくれ。俺はそれが足りなかったようだ」
ドアに向かって歩きだすヘクターの背中に向かって、ダラが言った。「幸運を祈ってるわ」
ヘクターはドアのロックを解除して、肩越しに振り向いた。
「あの巡回船のドロイドにも、そう伝えるよ」
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6.烈火
フーブーリアン・メタンカの証言通り、ダンキーマンダ宇宙港には確かにターバスが滞在していたようだ。情報は驚くほど容易く仕入れることができた。
ベーシックで大きく『シェイアン・メナス』という文字が光るネオン管の看板を門前に掲げたそのタヴァーンは、まるで銀河中のエイリアンたちを根こそぎかき集めたかのように、様々な風貌の貿易業者や売人でごった返していた。ボバ・フェットが中に入るとすぐに、見上げるほど巨大なクラグモロイドが咽喉の奥を鳴らしながら歩み寄ってきて、よそ者は歓迎しないとばかりに何語かでまくし立てた。すぐに連れのデヴァロニアンが――彼は明らかにフェットのことを知っていたようだ――クラグモロイドの大木のような腕を宥めるように揺すりながら、テーブルに戻るように促した。
「悪いな、こいつは宇宙旅行が初めてなんだ」
デヴァロニアンはフェットに向かって申し訳なさそうにそう言った。
フェットは一応、彼らの持つ情報を訊き出すことにした。
「ここにターバスという名のモン・カラマリがいたそうだが」
そのデヴァロニアンは、まだ興奮していきり立っているクラグモロイドを背中で押さえつけながら、苦笑した。
「奴のことならここのみんなが知ってるよ。あんた、ボバ・フェットだろ? あいつが何かしでかしたのかい?」
「奴は今どこにいる?」
悪魔の冷笑のような表情を浮かべ、デヴァロニアンは舌を鳴らした。「ボスに会いに行くって言ってたな。名前は確か――、そうだ、ボイネックスとかいう密輸業者の親玉さ。マカレオスの帝国墓地でいざこざがあったとかで、その近辺に船団を集めてるらしい。ターバスはそこに向かった」
フェットはヘルメットを動かさないように、上目でクラグモロイドを一瞥した。「いつ頃だ?」
「つい一週間前だ。ガモール・ランをワイルド・スペースの方向に30パーセクほど行ったところにある」デヴァロニアンは喋り終えるごとにいやらしい笑みを浮かべた。「マカレオスの辺りじゃ、最近は海賊が派手に暴れまわってるって話だぜ。ターバスがそんな物騒な場所にいつまでも居続けるとは――」
「なぜボイネックスはマカレオスに船団を集結してる?」
フェットに鋭く遮られ、デヴァロニアンは少し怖気づいた。「あ、ああ。なぜか? 確か、帝国墓地を手当たり次第に引っ掻き回してる海賊団とドンパチやらかすって噂があるらしいが、詳しい話は俺にもわからねえ。俺はただのギャンブラーさ。揉め事は願い下げだ」
フェットは彼の答えを半分まで聞くと、残りは無視してそそくさとタヴァーンを出て行った。
アスチェス大陸の北西に掛かっていた雨雲がいよいよダンキーマンダ宇宙港にまで及び、フェットが外に出ると突然雷鳴を合図に雨が激しく降り始めた。街路を行き交っていた人々は雨宿りできる屋根を目指して走りだす。ボバ・フェットはただひとり、雨で装甲服が濡れるのもかまわず、雨空に高く聳える入港管理センターに続く路地に悠然と歩を進めた。
フェットの被るマンダロアのヘルメットには、360度の視界で周囲を見渡すことができる松果形視覚センサーが組み込まれている。どんな凄腕のスパイでも、彼に気づかれることなく後をつけるのは不可能だ。今もフェットがちらっと横に頭を向けるたびに巧妙に物陰に隠れたり、雨宿りの仕草でごまかしている尾行者の存在は、シェイアン・メナスを出てからすでに見とめていた。黒いレザー風のケープを首から羽織っているその尾行者は、視覚センサーが誤作動を起こしていない限り、ドロイドに違いなかった。一見するとその頭部は昆虫型エイリアン種族のブリジットを思わせるが、金属的な質感は雨に濡れたおかげで見紛うはずもない。外骨格を表現したボディの装甲版は、透明感のある藍色に銀箔が散りばめられたような、見るも美しい塗装が施されている。雷光が閃くたびに、周囲の路面とともに艶やかな装甲版が明るく照らされた。
オルーヴァの言っていた、コフィーンの雇った賞金稼ぎとはこのドロイドのことだろうか。これでは、まるでカーダスよりフェット自身の首を欲しがっているようだ。
たとえ単なる世知らずの強盗だったとしても、このままカモの雛のようについて来られるのは気持ちのいいものではない。次の角を曲がったところで、尾行遊びはお開きとしよう。
フェットが狭い袋小路に姿を消すと、案の定ドロイドはその歩調を速め、曲がり角のすぐ手前に背中を押し付けるように立ち止まった。そしてそれを確認する間もなくフェットは袋小路から飛び出し、ドロイドに武器を持たせる時間も与えずにブラスターの銃口を頭部に押し当てた。あまりの早さに、この様子に気がついて立ち止まる者はひとりとしていなかった。
「誰の計らいだ?」フェットは蜂の巣状の複眼に向かって問いただした。「どこから追けていた?」
感情のないドロイドは壊れたように沈黙していたが、やがて二つの大きな複眼の間に光る本来の視覚センサーを点滅させ、音声スピーカーを唸らせた。
「ボバ・フェット、お前は命を狙われているのだ」
フェットはブラスターを握る右腕にさらに力を込め、ドロイドの後頭部を照明灯の柱に押し付けた。
「なるほど、警告をしに来たと? 誰に頼まれた?」
「私はその暗殺者を知っている。それだけのことだ」
どうやら、質問に答えるという単純なプログラムは設定されていないらしい。
「残念だが、お前の協力は必要ない。ここまで後をつけてきたらしいが、その英雄的行為を歓迎するつもりもない」
フェットが引き金に掛けた指に力を入れようとした瞬間、それを遮るようにドロイドはくぐもった唸りを発した。
「暗殺者の名はバーゲル・ザ・クルセーダー。マクソゾル・コフィーンに雇われたフェヴハイの賞金稼ぎだ。かつてアンパッソンの独裁者を血祭りに上げ、カンデスボアの虐殺を引き起こした男。お前に勝ち目はないだろう」
ドロイドは続けた。「ここに残って情報収集に時間を割くつもりならそれもよかろう。お前が追っている密輸業者はすでにオルーヴァ・ザ・ハットの勢力圏に触手を伸ばし、航路の略取を始めようとしている。賞金はお預けというわけだ」
「そんな戯言に乗せられると思ったら大間違いだ。それとも、ここで貴様の身元をオルーヴァに尋ねてみるか?」
「この事実をどう判断しようとお前の勝手だが、バーゲル・ザ・クルセーダーは必ずお前の行く手を阻め、そのマンダロアのヘルメットをマクソゾル・コフィーンに献上するだろう。奴は遠隔操作の戦闘ドロイドを多数所有している。たった四機を失ったとて、あの男には致命的な損害ではない」
ここに来る前に現れたドロイドのことか。「貴様には何もかもお見通しというわけか。それなら、その賞金稼ぎがいつここに現れるのかも知っているというんだな」
「ああ、そうだとも。今も、お前の後頭部に火炎放射器の銃口を向けて立っている」
ドロイドはそれをほとんど言い終えぬうちに赤い煙幕のようなものを複眼から噴射し、くるりと反転して袋小路に飛び込んだ。フェットはそれを追いかけるように右肩から前転して両手と左膝を地面につき、肩越しに振り向いた。
その瞬間、先ほどドロイドとフェットのいた空間を無数の炎の球が焼き、フェットを三メートルほど吹き飛ばした。一瞥しただけでは暗殺者の姿をはっきりと見て取ることはできなかったが、路地の向こう側に軒を連ねる建物のバルコニーに立っているようだった。
フェットは吹き飛ばされた衝撃を利用してぐるぐると前転を繰り返し、立ち上がると同時にブラスターを続けざまに数発バルコニーに撃ちこんだ。黒い人影は青白い磁気フィールドを体の前に作り出し――対ブラスター用シールド発生装置か――、ブラスター・ビームを偏向した。そして銃身を肩に乗せるような仕草を見せ、驚くべき跳躍力でバルコニーから雨空へ飛び上がった。
「私を狙っているぞ!」
頭上から先ほどのドロイドが声を上げた。振り向くと、螺旋チューブの中継地点に立っている。袋小路からどうやってあそこに辿り着いたのか。フェットはかまわず暗殺者の姿を探した。
突然あの炎の球が再び雨空を照らし、螺旋チューブに襲い掛かった。激しい爆発音を伴って鉄柵が崩壊し、建物のコンクリート壁を削り取る。支えを失ったターボリフトが上方から転がり出し、一階建ての商店に真っ直ぐ墜落した。地響きとともに雷鳴のような爆発音が巻き起こる。
たとえ火球を避けることができたとしても、ドロイドはあの爆発に巻き込まれたに違いない。フェットは暗殺者の姿を求めて空を見上げた。
あの軽武装の中にどれほどの仕掛けが施されているというのか。数本の触手のように見えるチェーンを背中から蜘蛛の脚のように広げ、まるで見えないネットにしがみついているかのように、空中に静止している。赤錆色の装甲服は雨に濡れてどす黒い血のようにターボリフトの爆発の明かりに照らされ、悲鳴を上げて逃げ惑う人々を見下ろす神像さながら、神々しいまでの異彩を放って周囲に目を配っていた。
あれがバーゲル・ザ・クルセーダーか。名前だけでなく、風貌まで大げさな男ときた。
シールドを装備しているとなると、接近戦に持ち込むか、シールドの出力を下げるまでブラスターを連射するしかない。だがあの俊敏さでは、攻撃を与え続けるのは難しい。歩兵用シールドでは耐え切れない、一点に集中した膨大なパワーを有する兵器が必要だ。
それを持つのは、<スレーブT> しかない。勝算は空中戦にあり、だ。フェットはバーゲルに攻撃されるのを覚悟で、街路の真ん中をドック区域に向かって走り出し、ブラスターを連射した。シールドを広げれば、奴は火球を放つことができない。
だが、フェヴハイの賞金稼ぎは思わぬ行動に出た。フェットの光弾を弾きはしたものの、彼自体は無視してそのまま炎の燃え盛る右方のビル街へ飛躍したのだ。ターボリフトに押し潰された商店はなお烈々と燃え上がり、火の粉と熱風、そして人々の叫び声を街路に吐き出している。フェットは立ち止まってバーゲルの姿を見とめた。彼はあのドロイドを探しているに違いなかった。
と、そのとき、フェットがフェヴハイの気を引こうと再び銃口を向けると、背後で重い金属がデュラスチールの地面にぶつかる音がした。次いで、先ほどの耳障りなドロイドの機械音声が唸りをあげる。
「ついて来るんだ。あの男の相手をしている時間はないぞ!」
バーゲル・ザ・クルセーダーはこの声を聞き逃さなかった。すかさず十本のチェーンを勢いよく振って体勢を立て直し、ドロイドに向かって無数の火球を放った。
「疫病神め!」
フェットはジェット・パックを噴射して火球を避けた。宙に舞い上がったフェットの足を掠った火球は、まるでゼリーに落ちるように硬い地面に突き刺さり、内部で炸裂したデュラスチールが火山の噴火のように盛り上がった。
ドロイドは破壊されたか。バーゲルの動向はセンサーに任せ、フェットは肉眼でドロイドの姿を探した。だがまたも期待は裏切られ、黒いマントを翻したドロイドは傷ひとつなく、火球で抉られた地面の五メートル先まで跳躍していた。
もはや自分のすべきことを心得ていたフェットは、迷うことなくドロイドにブラスターの銃口を向け、すべての光弾を的確に撃ち放った。着地する直前にフェットの銃撃を受けたドロイドは不意を突かれたように、完全に無防備な体勢で光弾を全身に浴びた。さらにバーゲルが崩れ落ちたドロイドに容赦なく火球を放ち続ける。
花火のような爆発が巻き起こった。ドロイドが自爆したようだ。青白いエネルギー波が環状に地面を走り、凄まじいソニック・ブームがドロイドとデュラスチールの残骸を周囲に吹き飛ばした。
爆発が止むとフェットはゆっくりと降下し、焼け焦げたデュラスチールの上に両足を下ろした。ドロイドは木っ端微塵だった。あの攻撃の様子だと、バーゲルは初めからこうするつもりだったに違いない。つまり、あのドロイドに物的価値はなかったということか。
フェットはまったく注意していなかった殺し屋を見やった。バーゲル・ザ・クルセーダーはまだ宙に浮かんでいる。
「何者だ?」
この問いに、彼はようやくにして反応を示した。巧みにチェーンをうごめかしながら降下すると、十メートル以上の距離を保ちながらバーゲルは火炎放射器と両腕に展開させていた奇妙な装備を片付け始めた。
フェットは自分に警戒しないその様子に苛立ちを覚えつつ、声のトーンを抑えてさらに言った。「貴様がマクソゾル・コフィーンに雇われたという男だな。見たところ、この惑星の保安要員ではなさそうだ。目的は何だ?」
バーゲルはまるで無視するかのように、装備をいじるのをやめようとしない。
フェットは馬鹿馬鹿しくなり、ついにブラスターを彼に向けた。「答えてもらおうか、クルセーダー」
雨音が激しくなり、やがて彼らの周囲には野次馬が集まり始めた。
赤褐色の胸当てに五本の指を立てると、バーゲルの背中から伸びていたチェーンがするすると縮み始めた。次にフェヴハイは左腕に抱えていた火炎放射器を持ち上げ、肩を軸にそれを反転させて背中に取り付けた。
仮面の黒いバイザーの奥が赤く光る。バーゲル・ザ・クルセーダーはようやく言った。
「お前に警告をしに来た」
フェットは笑い声を上げようとしたが、思い止めた。「警告か。最近はお節介が流行ってるらしいな」
バーゲルは何も言わなかった。
蛍光灯が灯るように暗い路地が照らされ、雷鳴が轟く。二人はしばらくそのまま睨み合っていた。
「ボバ・フェット」ようやくバーゲルが口を開いた。「警戒しろ。これはただのゲームではない。お前はまだ何も見えていないのだ」
フェットはブラスターを下ろした。「謎解きをする気はない。詳しく話したらどうだ? それが目的なんだろう」
「そうだ。だが、場所を変える必要がある」
「なぜだ?」
と、突然バーゲルは右上方に顔を向けた。フェットもそれに倣う。ドーム状の建物の上に、何体ものうごめく物体が見える。
フェットはブラスターを構えた。バーゲルはすでにチェーンを広げている。
「貴様の言うとおりだ。ここはゆっくり談話をするには、少しばかり賑やかすぎる」
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7.偽計
あのドロイドの動きは物理的にも不可解だった。なるほど、これなら説明がつく。
奴は何十体もいたらしい。
フェットがブラスターの引き金を引こうとすると、バーゲルがそれを制すように彼の目の前に立ち塞がった。
「何のつもりだ?」
バーゲルは背中を向けながらこう答えた。「DPウォーリアーだ。手出しするな」
フェットは嘲るように鼻を鳴らした。「俺は誰の指図も受けんぞ」
そのとき、雨風の中をこちらに猛スピードで向かってくる無数のエアスピーダーのエンジン音が、二人の賞金稼ぎの注意を引いた。十数人の野次馬たちも一斉にそれに気づき、スティンタリルから逃れるウーラマンダーのように、皆一目散にその場から走り去った。
DPウォーリアーの一体が甲高い機械音を上げた。「降伏しろ! 今ならまだ猶予はある」
フェットはバーゲルの背中を睨んだ。「いいだろう。ドロイドは任せる」
フェヴハイは肩越しにフェットを一瞥すると、上背部に花びら形に並ぶ八つの弁の下から伸びたチェーンを揺り動かし、宙を上った。間近に見ると、その動きは異様だった。リパルサーリフトではない。本当に見えない蜘蛛の巣を上っているようだ。
地元警察のエアスピーダーが、その形状のはっきりと見て取れる距離にまで近づいたときには、ドロイドとバーゲルの対決の火蓋は切って落とされた。勢いを増してきた雨足に負けぬ激しさで一斉に襲い掛かるブラスターの光弾をシールドで弾き、バーゲルは目の覚めるような火炎をドロイドたちめがけて放射する。この攻撃を避けるドロイドの動きは、まさにバッタのようだった。
飛び散るという表現が的確なふうに、ドロイドたちは四方八方に散開した。そのうちの一体がフェットの目の前の路地に着地する。フェットは即座にそのドロイドの頬を殴り、体勢の崩れたところを腹部めがけて蹴りを見舞った。
エアスピーダーはすでに彼らの頭上高くに静止している。全部で六機が路地に沿ってスカイホールド隊形を組んでいた。
拡声器が叫ぶ。「テロリストに告ぐ、速やかに武器を捨てて降伏せよ。お前たちは完全に包囲されている。降伏の意思なくば、我々はお前たちの命の保障はしない」
けっこう。フェットはその要求に、ブラスターの銃口を向けるという形で応えた。
* * * * * *
銀河には、「墓場」と呼ばれている宇宙空間が二種類存在する。一つは、かつて帝国軍が反乱分子への見せしめとして、デス・スターによって破壊した惑星オルデラーンの残骸である。この区域は新共和国によって厳重に航行規制がなされ、訪れる者は大半が犠牲者を弔う遺族たちだった。墓場と名づけられたのは、単に一つの惑星の運命を嘆き悲しんだ人々の喪失感を表しただけではなく、反乱同盟軍の決起を促すアジテーションとして利用するためでもあった。彼らの復讐心を燃え上がらせる事件として、オルデラーンに見舞われた悲劇は十分すぎるほどの衝撃だった。帝国軍の毒牙にかけられたカーマスやホノーグル、ゴーマンやエンバリンなどの惑星ではなく、オルデラーンこそがすべての反乱軍兵士が悲しみを分かち合う墓場だったのだ。
もう一つの墓場とは、他でもない、帝国軍が放棄した造船工廠や宇宙ステーションのことである。こちらは銀河の各地に散在しており、ならず者や海賊の巣窟と化している。帝国墓地と呼ばれるこれらの忘れ去られた旧帝国領の拠点には、今でも動力の残った機械や兵器が埋もれていた。それに目をつけた悪党の筆頭格が、ライナス・クレイゴンという名の狡猾な海賊の頭目である。
新共和国も対策を怠っていたわけではない。旧帝国の軍事基地から危険な物品を回収することの重要さを、元老院も心得ていた。だが、すべてにおいてそれが実行されるには、莫大な費用と人員が必要とされた。帝国墓地の対策委員会を率いるイブ・シンキシス元老院議員は、通常議会でこの回収作業に要する予算と期間をこう発表した。新共和国による約一千億クレジットの供出が不可欠である、そして、すべてが達成されるためには、少なくとも二十年はかかると。
新共和国元首モン・モスマは、保守派の元老院議員たちの反対を押し切り、この費用提供に同意した。それでも、サコーリアン・グレイン・フライのように帝国墓地に群がる海賊たちの略奪までを取り締まることはできなかったのである。
だが、帝国軍の装備に身を包んだ悪名高きクレイゴンに頭を抱えているのは、新共和国だけではなかった。海賊の資金源とも言うべき通商航路を運営する組織がそれだった。その一人マクソゾル・コフィーンは度々彼らに苦汁を飲まされており、その影響は目に見えて深刻化していた。
コフィーンは賞金稼ぎを雇い、親玉のクレイゴンを始末することでこの害虫を根絶しようと考えた。だが、それにかねてから反対していたのが、奴隷商人オルーヴァ・ザ・ハットである。オルーヴァは、帝国軍の脅威的な軍事兵器の数々を所有し始めたクレイゴン一味の、破壊活動による副産物を欲していた。それが、輸送船団や旅客船から放り出された人々である。海賊と何らかの協定を結ぶことで、この難民たちを引き取るのは容易い。たとえコフィーンの航路上であっても、海賊に拉致された人々は海賊の戦利品となる。海賊を介して手に入れたものは、コフィーンから直接奪ったものではないのだ。事実、銀河の闇市には海賊が売りさばいた物品が多く出回っている。この品々の元の持ち主の所有権は完全に消滅していた。密輸品には保険をかけることはできないのである。
二人の犯罪王は、表向きには不可侵協定を締結した。そして、密輸業者ジョージ・カーダスの対策として共闘体制を敷いた。だがその一方では、二人は完全に対立していたのだ。コフィーンはトランドーシャンの賞金稼ぎ、ボスクにクレイゴンの殺害を命じ、バーゲル・ザ・クルセーダーにジョージ・カーダスの殺害を命じた。これは協定を背景にした正当な施策である。オルーヴァは結果的に、この両方を妨害することになった。
オルーヴァがアーク・レマジオンに初めて接触したのは、今から三ヶ月前のことである。いや、正確には、レマジオンが彼に自分と接触するよう計らったためであったが。オルーヴァの究極の目的、大規模な混乱を招く協定決裂の実現に向け、レマジオンは彼に闇の取引を申し出た。コフィーンに仕える理事の一人、シウィドス・デリプトの管轄下にある領域の近辺でならず者たちの間に争いを引き起こし、クレイゴンを動かす。そこには餌となる手つかずの帝国墓地が存在した。
コフィーンの座を奪うレマジオンの計画は、まずこの領域にダメージを与えることで始動する。オルーヴァはそのために資金を提供した。周到に、綿密に練られたこの計略は今、実現することとなった。マカレオスではすでにクレイゴン一味と、名のある密輸業者の船団が睨み合っているのだ。
モルティオードにそびえるベタックス宮殿の螺旋階段を上りながら、レマジオンは自らの企みのシンク・タンクとも呼ぶべき重要人物のことを考えた。マーサイゲンはどのような言葉を使い、ボー・シュッダ星系に辿り着いたオルーヴァ・ザ・ハットを誑かすつもりだろうか。オルーヴァがボスクだと信じ込んでいる囮船が破壊されたとき、あのハットはその瞬間からマーサイゲンの操り人形と化す。その一部始終を記録した映像を、レマジオンは見たくてたまらなかった。この計画が始まって以来、レマジオンが最も悔いたことは、首謀者である自分が報告を待つ時間が思った以上に長いことだった。ただ、それだけだ。
レマジオンは苦笑を浮かべた。
だが、不安は微塵もない。彼は手下たちを信頼していた。マーサイゲン以上の働きができる者はいないし、DP−G1ほど扱いの容易な傭兵もいない。シャドウに代わる男など、全宇宙にただの一人もいないのだ。彼らはレマジオンの策略のために生まれてきたと言っても過言ではないくらい、奇跡的なほどの適材だった。
チャンスは一度しかない。これを逸すれば、残るのは破滅だけだ。
ねじ巻き状の石柱を中心に伸びる螺旋階段は、コフィーンの謁見室に至る唯一の回廊である。ターボリフトなどはない。謁見室と繋がっている部屋や、外気の通る隙間さえなかった。何重もの分厚い石壁に閉ざされた謁見室は、一ヶ所に配置された十人弱の衛兵だけで保安面は十分な、構造上難攻不落の密室なのだ。
平均気温がマイナス三十度以下という極寒の惑星にあるにもかかわらず、この部屋は熱帯のように蒸し暑く、アンクス以外の種族には息苦しくてたまらない空間でもある。レマジオンはここに足を運ぶ毎に、コフィーンに対する憎悪が蓄積されていくのを感じていた。
「お呼びですか、グレート・コフィーン?」
相手の姿がそれほどはっきりと見えないほどの距離で、レマジオンは遠く謁見の間でくつろぐコフィーンに向かって尋ねた。
コフィーンの玉座から謁見室の出入り口までは、巨大な甲虫の脊椎のような洞窟状の回廊が横たわっている。電飾などはなく、不均等に並んだ松明だけがこの部屋の光源だった。視力の弱いコフィーンは、しかし姿の見えない右腕の到着を腕を広げて歓迎した。
「来るがいい、レマジオン」
出入り口の両脇には、ヴォドランとウィークウェイの守衛がそれぞれ三人ずつ立っていた。レマジオンはその間を悠然と進み、歩きながらさらにこう切り出した。
「報告書はご覧になりましたかな?」
コフィーンは肩をすくめた。「要点だけはな」
こう答えた彼の向かって左隣には、扇を扇いでうやうやしく主人に風を送っているエイリアンがいた。ジム・バイアスではない。頭髪の代わりに鳥の羽のような鶏冠が生えたそのヒューマノイドは、切れ長の大きな瞳をレマジオンに向けたが、表情を変えずに無関心そうに再び主人の機嫌取りに注意を戻した。
また、執事が代わったようだ。レマジオンは歩を進めながら心の底で笑った。このアンクスは、話のネタに困らない相手だ。
「バイアスの姿が見えませんが」
コフィーンは右手を振って新たな執事を指した。「バージャ・ヘッカだ。先ほどハヴシーンから着いたばかりでね。お前に紹介するために、少し到着を前倒ししたのだ」
「なるほど」レマジオンは声に興味を示したような含みを持たせつつ、歩みをさらに遅くした。「バイアスが閣下のご気分を害することでもしましたか?」
コフィーンは肩を揺らしてせせら笑った。「殺されたのだ」
なるほど。レマジオンはこれには声を出して相槌を打たなかった。
この要塞の中で暗殺などは不可能だ。だとしたら、バイアス殺害の犯人はコフィーンの客しかいない。オルーヴァに違いなかった。
これは興味深い。あのハットは残虐だが、決して無意味に殺人を犯すような男ではない。意味のある殺し。しかも、それはおそらくコフィーンの目の前で、衛兵の目と鼻の先で起こった。
正当防衛だ。コフィーンはバイアスを使い、公然とオルーヴァの命を狙った。そして、それをオルーヴァが自ら阻止した。しかもこの殺人劇は、単なる犯罪王同士のゲームとして繰り広げられたに違いない。
レマジオンは胸を痛めたように首を振りながら、ため息をついた。「ご心痛察します」
従順にして律義な態度は、時と場合によっては強烈な皮肉と紙一重である。
「もういい。レマジオン、お前が最後にここに顔を見せたのはいつだったかな?」
ようやくレマジオンは暗がりから姿を現し、コフィーンの五メートル手前で立ち止まった。
「不可侵協定の草案がまとまって三日後です」
「ああ、そうだ」コフィーンは玉座の背凭れに上体を預けた。「それで、私はお前に何を指示した?」
レマジオンは腰の後ろに手を組んだ。「傭兵の発注と管理、そして理事会の招集です」
「そのうちのひとつには満足している。だがそれは、お前でなくてもできることだ。もうひとつの結果には満足していない」
レマジオンは笑みをこぼした。「と、言いますと?」
コフィーンは右手を振ってバージャ・ヘッカを立ち退かせた。「私はお前に貴重な時間と資金を与えた。それに見合う成果を私は求め、お前は約束した。だが、私は満足していない。なぜなら、傭兵に関する報告は今日ではなく、一ヶ月前に送れたはずだからだ」
「その点も報告書には明記しております。私も閣下同様、オルーヴァがボバ・フェットを雇うことを初めから知っていたわけではありません。例外中の例外に対処するのに多少の時間を浪費したのは事実ですが、結果的にまたとない契約が結べたのも事実です」
「私はお前に薄ら笑いも指示したか?」コフィーンは声を荒げた。「お前が使った大金を積めば、あのボバ・フェットも心を動かしたはずだ。いいか、金の使い方に関しては、お前は素人だ。サバックのテーブルに座っているような気持ちでは生き残れぬ。オルーヴァはあらゆる点で、我々の一歩先に駒を進めているのだ。奴が順風に恵まれているのはなぜだ? 風の動きを予測し、帆を張るタイミングを熟知しているからだ。お前はその間、何をしていた? 私に報告するのもためらうような荒くれを探していたか。それで私が満足するとでも思っているのか!?」
コフィーンの稲妻のような怒声は密閉された謁見室の隅々まで響き渡り、生暖かい空気を冷やした。土偶のように列立する衛兵でさえ、滅多に見せないコフィーンのあからさまな怒りに驚き、隣の同僚と目を見合わせた。今にも獲物に飛びかからんとするクレイト・ドラゴンの雄姿さながら、肘立てを掴んで身を乗り出したコフィーンの両目は焼けた岩のようにぎらつき、三日月形の頭部は活火山のように熱を帯びる。レマジオンはその圧倒的な巨体の影に呑み込まれ、まるで津波に向かい立つ細い葦のように無力な存在に見えた。
「つまり――」レマジオンは言葉を押し出した。「私が雇った賞金稼ぎたちに問題があると?」
憤怒に打ち震えたアンクスは大きな頭部をさらに低く下ろした。「怠慢の謗りは免れない、そう言っているのだ」
レマジオンは動じなかった。「賞金稼ぎの情報を伏せていることが怠慢だと?」
「私をなめるな」コフィーンはついに犯罪王の真の姿を晒したかのように、聞いたことのない低い声で言った。「一ヶ月前は何をしていたか、それが答えられないなら、お前はもうこの組織に必要ではない」
「あと一日」レマジオンは言った。「それだけ時間をください。明日になれば、オルーヴァの動きに関する報告が、ボー・シュッダからもたらされます」
コフィーンは冷や水のような彼の言葉に一瞬口をつぐんだ。「ボー・シュッダだと?」
衛兵の一人がごくりと唾を呑み込む音が誰の耳にも聞こえるほど、謁見室は静まり返った。レマジオンはすでにこの場の主導権を握った。
「オルーヴァがボスクを追跡していたのはご存知でしょう。だがあのハットは現在、ボー・シュッダに針路を向けています。これは事実です」レマジオンの目は虚空を見つめていた。まるで独り言をつぶやいているように。「報告書を書き直しましょう」
「わかった。もういい」コフィーンはうんざりしたように手を振った。「お前の考えを聞こう」
レマジオンはにやっと笑った。「ボー・シュッダには傭兵の一人を潜伏させています。厳密には賞金稼ぎではありません。偵察員とでもいいましょう。彼は私の命令を忠実に実行し、オルーヴァの船をボー・シュッダにおびき寄せることに成功しました」
コフィーンは舌打ちをして遮った。「どのようにだ? おびき寄せるとは?」
「彼はオルーヴァと接触をしているのですよ。詳しい方法については報告を待たねばなりませんが、少なくとも、ハットに招待状を送ったわけではない。餌を使っておびき寄せました。ボスクのような、彼が食いつくものにそっくりの餌を使って」
レマジオンは鼻から息を吸い込んだ。「私の偵察員はまた、交渉者でもあります。私は彼に、オルーヴァに新たな賞金稼ぎの調達を促すよう交渉せよと命じてあります。なぜなら――」
「ボスクにそっくりの餌とやらを破壊するつもりだな」コフィーンは再び遮った。「ボスクを失った責任をハットになすりつける。クレイゴンを始末する駒がなくなり、どうしたものかと切り出す」
コフィーンはまるで偵察員の物まねでもしているかのように、ふざけた甲高い声で言った。「オルーヴァ、ボスクを殺しちまったな。どうしてくれる? 代わりを用意してくれ」
レマジオンは道化のように両手と首を振りながら演技をして楽しむアンクスと一緒になってせせら笑った。「その通り」
肩を振るわせて笑った後、コフィーンは滑稽に見えるほど極端に真面目な表情に切り替えた。
「できるか?」
レマジオンは頷いた。「偵察員の腕は確かです」
コフィーンはその答えを無視した。「オルーヴァとて、ボスクの死などで動揺するようなタマではない。私に相談を持ちかけるかもしれん。我々は今や盟友だからな」
盟友という言葉が強調されたのを聞いて、レマジオンはアンクスの皮肉を読み取った。
「協定では」レマジオンは言った。「この種の交渉がなくとも、オルーヴァに代わりの傭兵を用意する義務があることを示唆しています」
コフィーンは咀嚼するように頷いた。「その後の算段は?」
レマジオンは肩をすくめた。「まだ成功の保証はいたしかねますな」一息つくために、チュニックの裾についた皺を伸ばす。「いくつかシミュレーションを行いました。一つは、オルーヴァが予定通り我々の要求を呑んだ場合。そして、その逆。なかでも、ボスクの死亡事故が偽りだと見破られる可能性は厄介です。我々の協定違反の物的証拠を彼に与えることになるのですから」
「当然だ。私は、それが実際に起こった場合の算段を訊いている」コフィーンは苛立ちを隠さず、肘掛けを指でせわしなく叩きながら答えを催促した。
アンクスにとって意外だったのは、レマジオンがこの期に及んでまたもお馴染みの薄ら笑いを浮かべたことだった。まるで自分が無敵の弁護士であるかのような、自信と傲慢に満ちた策略家の笑いだ。
「私には、百通りの手段がすぐにでも思いつく部下がいます」
レマジオンはきびすを返し、コフィーンが口を開きかける前に暗闇に姿を消した。
コフィーンは右手を振り、執事を呼び戻した。エイルーの従順な執事は盆に黒い飲み物を載せて戻ってきた。
「MR−9のことかな?」
バージャ・ヘッカは意見を述べる代わりにかぶりを振った。
コフィーンは盆の飲み物を手に取り、一口だけ喉に流した。
「奴は話を複雑にしているだけだ。私には嘘をつけない。ただ、私に何かを隠しているのは確かだ」
「閣下に隠し事などできません」
ヘッカの言葉に眉をひそめ、コフィーンはさらに一口、真っ黒のアルコール飲料を喉に流した。
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8.真相
「ボー・シュッダです」
ハイパースペースから離脱した <ブッチャー> を出迎えたのは、無数の巨大な岩が流れる小惑星帯だった。艦橋のビューポートの前にフローターを止め、オルーヴァは振り向きざまに叫んだ。「ボスクを探せ!」
デネミスは背中で、コンソールを一心に操作して命令を遂行せんとする手下たちの意思と熱意を感じた。まるで軍隊だ。彼らはオルーヴァに微塵の疑いも持たず、自分のすべきことに黙々と打ち込んでいる。
これぞ組織だ。単なる寄せ集めのゴロツキ集団には到底真似のできない仕事が、我々にとっては呼吸に等しい。
前線で指揮を取る軍司令官のように、オルーヴァはさらに声高に続けた。「最初にボスクを発見した者には八百くれてやる。ありったけのセンサーを駆使しろ。星系に漂う粒子ひとつ逃すな!」
オルーヴァの旗艦 <ブッチャー> ――全長500メートルの改造型ユブリキアン・メテオブレーカーには、合法、非合法問わず数十の高感度センサーが備わっており、莫大な消費エネルギーを惜しまねば、0.5秒間に半径三十七万キロメートル内のあらゆる走査データを手に入れることができる。さらに、艦内に眠る十ダースばかりの無人探査機や、センサー傍受網の拡張を支援する無数の観測シーカーを扇状に展開すれば、宇宙空間の探査は無限の可能性を有することになる。
星系に漂う粒子をひとつも逃さない完璧なデータは難しいが、その表現も <ブッチャー> の探査能力をもってすれば非現実的な領域を脱却しうる。スタラス・デネミスにとっては空気の存在を信じるように、現実的なことなのである。
それゆえ、わずか三十分余りで <ハウンズ・トゥース> の機影を取り巻く追跡ドローンの亜空間発信シグナルを捉えても、驚くどころか「時間の掛かりすぎだ」とさえ感じたのだった。
えび茶色の鬣を逆立てたラースビーの乗組員が、獲物を見止めたコレリアン・サンド・パンサーのように下顎をくわっと開いて叫んだ。「ボス、ドローンを見つけましたぜ!」
ドーナッツ形の艦橋の中央に浮かぶ球体のホログラム走査映像が、ラースビーによって選択された箇所を拡大し、五体のドローンを示す青い光点を映し出した。艦内に荒くれたちの歓声が湧き起こる。
オルーヴァはすかさずフローターの指令コンピューターを叩いた。「よくやった、カル・ヴェンコ」フローターに内蔵された通信機が唸る。「アロマノワス、探査ドローンを送れ」
「“了解、ボス”」
デネミスは、オルーヴァがほっとため息をついたのを見て取った。これでまずは第一段階をクリアした。今度はボスクに餌をちらつかせ、コフィーンがせっせと作り上げたゲーム盤の陣容をじわじわと崩すときだ。マスター・オルーヴァの持ち札でも一際強烈な一枚、マンダロアのカードがようやく、不気味な逆光とともにハットの手から放たれようとしている。そして――
「デネミス」オルーヴァが声をかけた。
「はい、マスター」
ハットは笑みを浮かべていた。「分かっているな。このタイミングを逃すな。わしが必要としないなら、お前のポストはジャワでも十分なのだ」
デネミスは頭を下げた。「心得ております」
そして、このゲーム盤にはすべてを混乱に陥れるほどの隠し札が、アンクスには想像もつかないほど無数に潜んでいるのである。
* * * * * *
推進器をミサイルに撃ち抜かれたエアスピーダーが、炎に包まれながらビルに墜落した。壁に激突した衝撃で、安定翼の一つが回転しながら路上に吹っ飛び、DPウォーリアーを二体ほど破壊する。フェットは宙返りでその爆発の煽りをかわし、着地する直前にバックパックを噴射して宙に舞った。
「応援を呼べ!」エアスピーダーを操縦する警官の一人が叫ぶ。
残り三機のうち一機が、機体を旋回させて戦線を離脱しようとしている。フェットはそのスピーダーに向けて、手首からワイヤーを飛ばした。
強力なグラスファイバー製ワイヤーの鋭い先端が、旋回するスピーダーの尾翼にしっかりと固定されると、速度を上げたスピーダーにフェットは勢いよく引っ張られた。腕が引きちぎられそうなほどの力にフェットは歯軋りしたが、他のスピーダーが彼を撃ち落そうと機体を寄せるのを確認すると、苦痛をこらえて右腕を腹部に引き寄せ、フックの付いたワイヤーを投げるように切り離した。
すると、エアスピーダーの一機がそのフックに見事引っかかり、ワイヤーは空気を震わす鋭い音を立ててピンと張った。ワイヤーに繋がれた二機のエアスピーダーは制御を失い、脱走を試みていたほうのスピーダーが勢いあまって高度をがくんと下げると、それに吊られた後方のスピーダーが風に煽られるように機体を揺らし、左手に迫ったビルに激突した。先頭のスピーダーもそれと同時に路上に叩きつけられる。
残った一機はさらにブラスター・キャノンを連射した。彼らはこれだけでは戦意を喪失することがないようだ。フェットは彼らの鉄の意志に敬意を表しながらも、痛めた右腕をかばいながら小型の催涙弾をスピーダーに向けて容赦なく発射した。
すると、今度はバックパックに鋭い衝撃を受けた。被弾したらしい。フェットは背後の新たな脅威をその目で確認する一瞬の時間も惜しみ、スランタ・ライダーのように体を回転させながら、地面に向かって勢いよく舞い降りた。
だが、フェットが敵を――忌まわしいDPウォーリアーの姿を求めてブラスターを向けながら振り向くと、すでに彼らは両手をあげて炎上していた。さらにその一瞬後には強烈な爆風が巻き起こり、ドロイドたちを紙吹雪のように吹き飛ばした。
今の攻撃はどんな武器を使ったのか? フェットはそれを知りたい好奇心を打ち破り、エアスピーダーに注意を戻した。
「テロリストに告ぐ。今すぐ降伏すれば正当な裁きが保障される。速やかに武器を捨て――」
エアスピーダーは無数の火球に機体を殴られ、フェットの見上げる空中で爆発した。
* * * * * *
「“見事だった。評判だけのことはある”」
バーゲルのくぐもった低い声は、通信機を介してからでも暗闇のような存在感を放つ。だがフェットはそれに気を取られている余裕はなかった。
この動く銅像は冷静にもほどがある。
後方シールドを叩くレーザー砲弾に機体を揺すぶられながら、フェットは何とか <スレーブT> の体勢を維持し、全速力でシャトレガーから離れていった。ちらっと右に目をやると、甲冑と同じ色の装甲板に覆われたバーゲルの異様な宇宙船が並行していた。甲殻類の胴体のような節のある二枚の安定翼に挟まれた船体は、これもまた甲殻を持つ巨大な生物のように背を丸めた形をしている。
<スレーブT> とバーゲルの船を追っているのは、これよりもさらに生物じみた、昆虫のような宇宙船だ。明らかにシャトレガーの警察のものではない。フェットは、この敵が先ほどのドロイドたちの母船であることを苦々しく感じた。
「その話は後だ。あの虫どもはなぜ俺たちを破壊したがっている?」
バーゲルは即座に応じた。「“ドロイドが欲求を抱いているかのような言い方だな”」
フェットは機雷のスイッチを押した。「いいから答えろ」
DPウォーリアーは誘導ミサイルを放ち、次から次へとフェットの機雷を撃ち落した。
「“本来なら、お前を殺るのは私の役目だった。あのDPドロイドもそれを知っていた。私はお前と同じ賞金首を暗殺するためにマクソゾル・コフィーンに雇われ、お前を妨害する手はずだったのだ”」
フェットは黙ったまま、<スレーブT> の機体を下方に落とした。
「“掟のことか? 私には関係のないことだ”」
「それで?」
バーゲルの船は上方に舞い上がった。ドロイドの母船はなおもフェットに向かってくる。
「“コフィーンのスパイがお前の居場所を知らせに来た。私はその男に尋問し、アンクスの目論みを知った”」バーゲルは機体をターンさせると、ドロイドの母船めがけてレーザーを連射した。「“ボバ・フェット、お前はジョージ・カーダスを追っているつもりだろうが、そんな男はもうこの銀河には存在しない。お前は誰に雇われた? オルーヴァ・ザ・ハットだ。奴にいい知らせをやるんだな。お前が大金を投じて雇った男が、実はお前自身の命を狙っている、と”」
フェットは馬鹿馬鹿しくなり、不意に操縦桿を握る手から力が抜けていくのを感じた。そして、座席から浮き上がるようなめまいを感じた。なぜだ? マンダロアの末裔が、こんな茶番の舞台裏を聞かされたぐらいで、なぜ動揺する?
バーゲルはドロイドへ無数のレーザーを繰り出しながら、なおも冷酷に続けた。「“DPウォーリアーはコフィーンの刺客ではない。だが、お前を破壊するはずだった私の仕事をうまく演出する命を帯びていたらしい。どうやらこのサバック・テーブルには、もう一人参加者がいるようだ”」
「忌々しい」フェットは吐き捨てた。「ジョージ・カーダスはいないだと? もっとうまい冗談を考えておくんだな」
バーゲルから応答はなかった。
フェットは嘲るように鼻を鳴らし、逆追跡シグナルを発した。「マカレオスだ。来い」
* * * * * *
必要最低限の照明しか灯されていない薄暗い船内は、眠れる銀河の不気味な静寂に包まれていた。象牙色の質素な短袖の下に黒い肌着、こげ茶色のパンツにナセリアン・ブナベットの黒光りした革靴を身に着けたビーガー・ショルトサンは、深宇宙に臨む舷窓を右手に、狭い回廊を足早に進んだ。回廊の奥に設けられた彼専用のキャビンに辿り着くと、バイオスキャニング装置によって指一本触れずにドアを開け、歩調を乱すことなくそのまま中へと入っていく。
室内は暗闇から昼間のような明るさを取り戻し、ショルトサンの目を焼いた。彼はかまわず、入って左の通信コンソールに手をやった。
ドアが完全に閉まるのを確認し、彼は呟いた。「イガリー・バブラ」
受信機がうなり、次いでこぶし大のホロプロジェクターが映写盤に立体映像を映し出す。現れたのは華奢な若い女性だった。
「“お久しぶり! 銀河の空気はいかがかしら?”」
ショルトサンは難しい顔で応じた。「今まで何をしていた?」
バブラは片手を腰にやり、もう片手で短いブロンドの髪をとかしつけた。「“あなたに言われたとおりのことをしていたまでよ。まあ、多少手間取ったのは確かだけど。そっちはどう? 将軍様の子守りは慣れたかしら?”」
ショルトサンはため息をついた。「無駄話をしてる場合じゃない。パーディブルの船から話してる」
「“あら失礼”」
「くそったれオルーヴァが動き出してるみたいだ。手短に頼む」
人形ほどの小さなホログラムの彼女の頭部は親指に収まるほどしかないが、それでもぎらりと目が光ったのは明らかに見えた。
「“ボスクは近くのモーテルに泊まってる。もう一週間も何も口にしてないみたいに興奮してるわ。もってあと二日ってとこね。それに、少し警戒し始めてる。あの男、思ったより賢いかも”」
「時間は十分稼いださ。あとは俺がやる」ショルトサンは計時器を見た。「それで? 例のくそったれ第三者っていうのはどうした?」
「“第三者よ。どうもボスクの幼馴染みみたい。あのトランドーシャン、仕事のたびに無許可で誰かと手を組むらしいわね。ポケットマネーだと言ってるけど、それもどうなんだか”」
「名前は?」
「“カーニボス。とりあえずこっちでも調べてはみたんですけどね”」バブラは胸ポケットからデータパッドを取り出し、数回キーを押して読み上げた。「“生まれはコルサント。それも下層区域のスラムもスラム。あたしの見たところ土着のミュータントの類ではないようだけど、ちょっと不気味ね。足はコレリア製の古い偵察艇を使ってるわ。武器の扱いとしては、――ボスクの言うには――ブレードやナックラーに長けていて、最も実力を発揮できるのが肉弾戦って。実物を見れば分かるけど、隣にいるトランドーシャンが子どものぬいぐるみに見えるわ”」
ショルトサンは眉をひそめた。「カーニボス……」
「“そうよ。何か知ってるなら思い出してほしいんだけど”」
「いや、分からん。風貌は? 手短に頼む」
「“背丈は大体ボスクと同じ程度。でも首は長くて、常に前かがみになってる。手足はそれぞれ二本ずつ。肌は黒みがかった赤。冷えて固まる直前の溶岩ってとこね。外見はナー・シャッダのヴーブルザーとガンダークを掛け合わせた感じかしら。指は四本。鼻面が赤くて、目は複眼みたい。牙はトランドーシャンよりおとなしいけど、鉤爪は伸縮自在で物騒な武器だわ。身に着けてるのはガンベルトだけ。こんなとこかしら”」
「そいつはマニコンだ。くそ!」
「“なんて?”」
ショルトサンはめまいを飛ばすように首を振り、目頭を押さえた。「ボスクの野郎、とんだ友達を連れてきたもんだ。……いいだろう」彼はどこからともなくコムリンクを手に取り、周波数を調節した。「ここはいい。ご苦労だった。明日には着くだろう。追って連絡する」
バブラは両手を振った。「“待ってるわ”」ホロが消える。
コムリンクは雑音を発した。周波数は合っているはずだが。
ショルトサンは構わずマイクを口に近づけた。「DP−G1、応答せよ」
雑音は激しくなり、次いで甲高いアラームのような音が鳴り、すぐに遠ざかった。
「DP−G1、応答しろ! 何か問題でもあったか?」
コムリンクはぐずっているような音を発し続けていたが、やがて収まり始め、先ほどのアラーム音がやや聞き取りやすくなった。
「DP−G1、応答せよ」ショルトサンは肺から空気を押し出すように繰り返した。
すると、またもや砂嵐のような雑音が始まったかと思うと、ついに無感情なドロイドの声が応じた。
「“――G1。現在敵の砲撃を受け、制御――”」
ショルトサンはごくりと唾を呑んだ。「船か。待て、撤退しろ。聞こえたか? 撤退だ!」
「“――損傷により――”」雑音が続く。「“――スレ……、――らいの――”」雑音が激しくなり、通信が途切れた。
「くそ!」ショルトサンは思わずコムリンクを壁に叩きつけそうになった。
あれはシールドの影響だ。ドロイドはなぜ戦っている? 計画にはないはずだ。相手はボバ・フェットか? そんなはずはない。何か想定外の――アクシデントが起こっているに違いない。これは非常に厄介なことになった。
喉から込み上げてくる熱いものを呑み込み、ショルトサンは辛抱強くコムリンクに声をかけた。
「DP−G1、何が起こった? 応答せよ」
――雑音。
「DP−G1、こちらJ・F・L・シャドウ。聞こえるか? 応答しろ!」
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9.欺騙
もしもこのハットのドローンたちが生身の肉体を持ち、自らの意思で物事を判断する知的生命体特有の自由を持ち合わせていたら、おそらくこう嘆いていたことだろう。
「くそったれ!」
<ハウンズ・トゥース> は真空の宇宙空間で音もなく爆発し、跡形もなくなった。
* * * * * *
J・F・L・シャドウという名は、もちろん出生時に親に当たる者から授けられたものではない。本名を持たない者は銀河でもそれほど珍しくはないが、彼にとってもそれはさほど重要な意味を成さなかった。むしろ、彼や彼と同じ境遇の者たちにしてみれば、本名ほど厄介な荷物はなかった。
銀河で暗躍する詐欺師の中には、本名を捨てる者もいる。いくつもの偽名を使いすぎ、ついにはそれを忘れてしまう者すらいた。だがそれは彼らのような裏社会の住人にとっては都合がいい。権力や名声などではなく、山のようなクレジットだけが何よりのトロフィーなのだ。
ビーガー・ショルトサンという名は、だからもちろん一時的な偽名に過ぎない。いや、彼の奇妙な生涯においては、偽名という言葉にすら当てはまらないだろう。一種の記号、戦争で指揮官がある作戦を呼ぶ際に使うコードネームのようなものだ。偽りの名前ではない、この場所で、この仕事をこなしている間は、これが彼の本名なのだ。
そしてJ・F・L・シャドウというタイトルは、古の戦火に焼かれた誇り高き勇者の称号である。彼はこの名を好んで名乗った。
ショルトサンはパーディブル将軍専用のドレッドノート艦 <スプレマシー> のデッキに戻り、ひそひそと内輪話をしている数人のクラトゥイニアンに会釈した。
「いかがなさいました、司令官?」
ビーガー・ショルトサンは、パーディブル将軍の配下となってから、彼らから司令官と呼ばれるようになっていた。
ショルトサンは腕を組み、彼ら一人一人の目を見比べながら言った。「バブラと連絡がついた。俺はマラステアに行かなきゃならん」
「なんと!」クラトゥイニアンの一人が驚いて叫んだ。「すぐに閣下をお呼びせねば」
「待て。それはいい」ショルトサンは手を振って退けた。「あの物騒な惑星で何かあったら、将軍だけが頼りだ。この艦はここで待機させてくれ。必ず必要になる、いいな?」
彼らははやる気持ちを抑えながらも頷いたが、完全にショルトサンの言葉を信頼しているようには見えなかった。
ショルトサンはため息をつき、続けた。「少し手間取ったが、今のところ計画通りに進んでいる。アーク・レマジオンは理事会合が終わってすぐにモルティオードへ向かった。既知のハイパーレーンを使ってな。ここから後はスピードがものを言う。必要なものは俺とバブラが用意したし、強力なバックボーンも準備万端ときた。……文句があるやつは、この作戦にとって貴重な一、二秒を奪ってまで進言すべき重要な意見を用意するんだな」
クラトゥイニアンは一言もしゃべらず、デッキを立ち去るビーガー・ショルトサンの背中を見つめるだけだった。
さて、次だ。デッキを後にし、人気のない狭い通路に出るとすぐ、彼はショルトサンの冷静で紳士的な立ち振る舞いから、――変貌した。その顔からは他者を思う寛大な表情が消え、髄の奥から湧き上がる憎しみと、苦痛を楽しむ残酷な狂喜を発散していた。
シャドウの姿に戻った彼は、これからもう一人のクライアントと連絡を取らなければならない。アーク・レマジオンだ。まあ、今のところたいした用事はないことだ、船で移動している間に済ませるとしよう。
シャドウは力強く歯を食いしばった。よし、体調は万全だ。
戦争を始めるとしようか。
* * * * * *
イガリー・バブラ。これは間違いなく偽名である。
賞金稼ぎを生業として銀河の端から端を駆け回る人生を送っていたイオリマーは、今回の仕事でそれにピリオドを打つことを望んでいた。もう十分すぎるほど血を流したし、経験する必要のない泥まみれの殺し合いも数え切れないほど乗り越えてきた。女としてこれほど戦争の神に尽くしていれば、安寧の神も喜んで彼女を安らぎの世界へ導いてくれるに違いない。そうするべきだ。
ブラスターを握る右手は、平均的な人間男性の握力より強くなった。これは愛する家族に日々の手料理をふるまう良い手助けになるだろう。煙や有毒ガスの充満する修羅場で鍛え抜かれた両目の視力は、もはや常に天敵に狙われている賢い草食動物にもひけを取らない。これは仕事から帰ってくる夫の姿を少しでも早く見とめるのに役立つだろう……。
オード・マンテルやマラステアなどうんざりだ。これからはタナブやガーキのような惑星で、野山に囲まれた静かな田舎町に家を立て、犯罪や陰謀とは無縁の平和な時間を持て余す生活が始まるのだ。
可能なら、もう人間以外の種族とは会いたくないものだ。
まあ、ゼルトロンやバロサーのような比較的人間に近い外見のエイリアン種なら許容範囲だが。ウーキーやドロールのような哺乳類型種も、いいだろう。だが銀河には極めて異形の、可能な限り妥協した見識からみても魅力的とは到底思えないクリーチャーがわんさかいる。
そう例えば、まさに今彼女が座ろうとしている席の向かい、壁側のソファに深々と腰をおろした怪物、トランドーシャンだ。
「俺は何日もおしゃべりをするためにこの惑星に来たわけじゃねえ」
クラブに入った直後からずっと、視線を少しも逸らすことなく彼女を睨み続けていたボスクは、緊張の糸を切るように出し抜けに言い放った。
「お前が能無しだと思って何度も訊いてるんじゃねえが、繰り返すぞ」ボスクは牙をむき出した。「ボバ・フェットは今どこで何をしてる?」
しょせん夢は現実逃避のための便利な道具ね。イオリマーはため息をついた。吐き捨てるように。「質問がだんだんあんたの都合のいいように聞こえてくるのはなぜかしら?」彼女は椅子に腰をおろした。「ただ、悪くないわ。聞いて。――確かな情報が入ったの」
ボスクは鼻を鳴らした。「確か、か。都合のいい話だ」
イオリマーは無視して続けた。「シャトレガー星系で奇妙なテロ事件があったようなの。まだホロネットには流れてない情報よ。犯人はファイアスプレー級の保安艇で惑星に侵入した後、手ぶらで宇宙港の建物を破壊した」
「最初の半分までを聞く分には、間違いなくボバ・フェットだ」ボスクは唸るように言った。
「疑らないで、情報元は確実に信頼できるわ。このテロリスト――」
「だが」ボスクは案の定、彼女を遮った。「それはフェットじゃない。奴は破壊に関心はない。そしてもうひとつ、銀河には名のある賞金稼ぎに肖って無茶をする輩が溢れてる。ことハット・スペースではな」
忍耐だ、イオリマーは自らに言い聞かせた。「わかった。そう思いたければそうすればいいわ。このテロリストを追っていたドロイドの警備チームは、突然現れた賞金稼ぎの手助けで首尾よく破壊活動を鎮圧した。逃げられたけどね。シャトレガー警察は本土全域に捜査範囲を広げて、指名手配してる」
ボスクは笑い声を上げた。が、何も言わなかった。
イオリマーはうんざりして髪の毛をかきむしった。「知りたくないならもう話さないわよ! あたしにはあんたたちがいてもいなくても何の損得もない。ただし、イオリマーがボスクより先にフェットを殺すわ」
「そうしたければそうすればいい。できるかできないかは抜きにしてな」
――駄目だ。無意味な挑発に動じていられるほど暇ではない。
イオリマーは意識的に肩の力を抜いた。「さっきの質問の答えだけど、フェットはシャトレガーで立ち往生してる。今すぐ行けば間に合うかもね。そこにいるのは合法的な地元警察公認の手配犯よ。気が引けるなら、それもけっこう。間もなくフェットは捜査網をかいくぐってシャトレガーを発ち、マカレオスに向かう」
ボスクは明らかに不意を突かれた。「マカレオス?」
「マカレオスよ」
イオリマーは自分の体から、順調に緊張がほぐれていくのを感じた。「これはフェットのその評判通りの洞察力を信じなきゃならないけど。確かなのは、マカレオスの旧帝国軍基地の支配権を巡って、海賊と密輸組織の一団が盛大に衝突すること。一方はあんたが――建前上は――追いかけてる宇宙ハイエナ。一方は、ジョージ・カーダスの手下たちが今もっとも排除したがっている同業者よ」
頭の両端に付いた、焦点の定まらないボスクの二つの眼球がぐるりと天地を廻った。「そいつは確認する必要がある」
「どうぞご自由に。時間はたっぷりあるわ」
しばらくの間、両者は沈黙を保っていたが、イオリマーはその空気を破ってサディスティックに続けた。「贅沢な選択肢に喜ぶのね。あんたの懐にはどっちにしろ大金が舞い込む。ただ――」イオリマーはウエイター・ドロイドの持つ盆から赤いエールを取った。「二つに一つよ。どっちも、はない。コフィーンの耳にはシャトレガーの一件に関する情報は間違いなく入ってるわ」
ボスクは一考するため背もたれに上体を預け、下顎を爪で掻いた。
イオリマーは畳み掛けるように睨みつけながら言った。「あんたが無能だと思って繰り返すんじゃないけど、要するにクリーンかクリーンじゃないかの違いよ」
「それは違うな」ボスクは鼻を鳴らした。「信じるに値するかしないか、だ。まあ、シャトレガーってとこは興味深い。それに、お前の言うその一つめのプランを選べば、実に魅力的な武器を手にできる。フェットの錆び付いたヘルメットに泥を塗るパテだ」
「ええ、そうね」
ボスクは嬉しそうに続けた。「二つめのプランは複雑すぎる。フェットに悪知恵を働かせるチャンスもごろごろしてる。おまけに、フェットが仕事をこなすのを許す危険性も残るときた。二匹のマイノックを仕留めるなら、俺はシャトレガーに行く」
イオリマーは満足そうに笑みをもらした。「決まりね」
「だが、俺が仕留めたいのは一匹のマイノックだけだ」
イオリマーは目を真ん丸にした。「何ですって?」
ボスクは冷ややかにせせら笑った。「マカレオスは俺の庭のようなもんだ。お前は知らないかもしれんが、あそこはかつてトドーショクの縄張りだったんだ。古代に暴君マカレオスが権勢を振るっていたな。政略的な名目で帝国に売却した後はみんな素直にマイホームから身を引いたが、労働奴隷の供給が波に乗ったらこの植民地は公領化される予定だった。内乱の黎明期にはすでにその準備も始められていたが、エンドアで帝国が反乱軍に敗北した途端、その計画も水泡に帰した。だから誰も知らん。
トドーショクは故郷だけで幼少期の訓練を受けるんじゃない。マカレオスはクローン大戦が始まるはるか昔から、トドーショクの対外戦闘訓練の拠点だったんだ」
ボスクは続けた。「俺をシャトレガーに突き放している間に、甘い汁を吸おうって魂胆だったか。残念だな。さっそくカーニボスに伝えて、“ゆっくりと”遠征の準備を始めるとするぜ」
イオリマーはまさに残念そうに肩をすくめた。「そうするがいいわ」
勝者はボスクだった。……そう、一見するとイオリマーは自らの策略を、この狡猾なトランドーシャンにまんまと見破られたかのようだった。ボスク自身、それを信じて疑っていないだろう。
だが、ボスクはまったく気がついていなかった。敗北を認めたかに見えたイオリマーは、内心では燃え上がるような興奮を必死に抑えつけているのを。まんまと術策にはまったのは、実際のところボスクのほうなのだ。
ただし――。イオリマーは無邪気な歓喜に自ら水を差すように思い直した。ただし、それもDP−G1がうまくフェットをシャトレガーに釘付けにしていればの話だ。シャドウはこの旧式の軍事ドロイドの能力を信じろとイオリマーに告げていた。仕事仲間を信頼しなければ、すべての任務は功を奏さず、中途半端な失敗で多くの計画を破壊してしまう。結局のところマンダロアの古めかしい鉄則でしかないが、少なくともイオリマーはこの美学のような守節を受け入れ、納得している。
自分の仕事は終わった。ほぼ完璧に成し遂げたといえる。あとは、DP−G1とシャドウを信じるしかない。
シャドウは明日、このマラステアに戻ってくる。それもあっと驚く姿で、だ。
イオリマーは、緑色の中毒性のドリンクを喉に流し込みながら、傲慢な態度でソファに踏ん反り返っている目の前の爬虫類を、心の奥底で豪快に嘲笑った。
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10.(近日掲載予定)
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